【1-1 ポルス王国】

 魔法の首輪をはめられて逆らうことを封じられ、男も女も分け隔て無く鞭打たれて働かされていた亜人の奴隷たちが、武器を手に立ち上がり大規模な戦闘をはじめたのは十年前のことである。彼らは剣と魔法と銃を手に自分たちを虐げてきた人間たちに立ち向かい、そして死んでいった。
 最初の亜人の武装集団は小さなものだった。それが次第に膨れ上がり出来上がったのが『亜人解放戦線』やその他の亜人武装集団である。彼らは亜人の奴隷解放と地位向上をうたい人間と戦い、その中には占領した地域に国を建てた者たちもいる。なかには勢力争いにより互いに殺し合っている者たちもいる。
 だが、まだこの国には彼らの力は及んでいない。
 ポルス王国。この国では現在でも亜人が奴隷として使役され商品として売買されていた。それは文字通りにである。
「どうです? お土産にエルフの革バッグは」
 亜人は人の形をした家畜である。彼らは労働力としてこき使われ、欲望のはけ口として利用され、そして最後は皮を剥がれて衣服や装飾品として売られ、肉は家畜の餌となる。ポルス王国では今でもそれが常識であり、特にエルフの革は滑らかで質も良く高値で取り引きされ、その革で作られた財布やバッグは人気が高い。
 もちろんすべての国がというわけではない。亜人たちに自由と市民権を与えている国も存在している。奴隷売買はもちろん亜人の革を使った加工品などの輸入が禁じられている国も多い。
 昔よりは亜人たちの待遇は良くなったのかもしれない。しかし、楽ではない。だから亜人解放戦線などの武装集団が活発に活動しているのだ。
 ではこの男、ユスト・マクシミリオンはどうなのか。どちらの側なのか。
 正解はどちらでもない。
「お客さん、こっちの靴なんかもどうです? 安くしときますよ?」
  ユストはバッグを手に取り、じっくりと眺める。