これは父と麻由美さんと私の三人で出かけた時、父がトイレへ行っているのを二人で待っている時に交わした会話だ。
それを聞いて(まだ浮気とか不倫とかって言うのをきちんと理解できてはいなかったけど、それでもなんとなく悪いこと、異常なことくらいの認識はあった)ああ、この人は強いなと憧れの気持ちが湧いた。
麻由美さんは私に出来ていないことを実際の体験として教授する為に登場した人物なんじゃないかと思った。
勿論誰かの為に誰かがこの世に生を受けるなんてことはなくて、ましてや誰かに何かを教える為にだなんて有り得なくて、なのに当時の私はそんな風に麻由美さんの存在を受け入れていた。
「麻由美さんは怖くないの?」
「一体何が?」
「だって、麻由美さんは悪いことをしてるでしょ?お母さんは麻由美さんを見るとものすごい勢いで怒るでしょ?悪いことをするのも怒られるのも怖くは無いのかなって……」