いつの間にか、空に立ち込めた雲が過ぎ去っていた。
湖は再び、宝石のようにキラキラと輝きはじめる。

「みんな、待ってたよ」

猫のような瞳を細めて、皐月があどけなく笑う。
光沢のある彼の黒髪を、湖畔の風が優しく撫でるように揺らしていた。

皐月を見るなり、私の心臓がドクドクと鼓動を速めていく。

「皐月、驚くなよ! 優芽が帰って来たぜ」

「知ってるよ、さっき会ったから」

「何だよ、つまんねえ」

口を尖らせる日方を、皐月は微笑を浮かべながら見つめている。

響と彼方と日方の隣にいると、皐月の肌の白さは際立った。日焼けした男の子ばかりのこの町では、昔から皐月の存在は浮いている。皐月は私の目にはいつだって特別に見えた。

「皐月。病気、すっかり良くなったみたいだね」

皐月に歩み寄れば、皐月は腕を日光にさらし、自慢げに筋肉の隆起を見せてきた。

「お陰様で。ほら、光に当たっても何ともない」

「本当だ。すごい、皐月のくせに男らしい」

冗談めかして言えば、「どういう意味だよ、それ」と皐月は少しだけ拗ねてみせた。

日方と彼方が主に喋って、そこに時折響が言葉を挟んで私と皐月が笑う。
夏が来るたびにひとつ大人になっても、私たちの関係は変わらない。

これからも、ずっとそうあって欲しいと思う。
それほどに、毎年過ごすこの夏の時間は、私にとって大切なのだ。