タイヤが大きめの石を踏んだのか、車がガタンと揺れた。

山奥の田舎町のことだから、道路の舗装が行き届いていないのだろう。

林道を抜ければ、そこは懐かしい湖だった。

エメラルドグリーンの湖は、日の光を受けて宝石のように輝いている。
水面にはまるで鏡のように、夏の空と白い入道雲が映っていた。

澄んだ空気と夏の風、全てを吸い込む青い空。

きっとこの時期のここは、世界で一番美しい場所だと思う。

「よかった。去年と、ちっとも変わってないな」

運転席にいる響が、嬉しそうに言った。

大学進学のために春から東京に出て来た響は、服装が前よりちょっとあか抜けた。
もともと背が高く顔も整っているのもあって、大学ではわりとモテてるみたい。

「そういえば、響って彼女できた?」

「いないから、こうやって幼なじみと寂しく里帰りしてるんだろ」

ふてくされたように響は答えると「あ」と声を上げた。

湖を過ぎれば、竹林に囲まれた道に入る。
神社へと続く階段のふもとに、小さな祠がある。

その手前に人影が見えた。