水辺の景色が終わり、林道に入った。

その時、誰かに呼ばれた気がして、私は後ろを振り返る。
リアウインドウの向こうには、林道の先で輝くエメラルドグリーンの水面が僅かに見えるだけだった。

それでも私は、そのまましばらく後ろを見つめていた。

「どうかしたか?」

後ろを振り返ったままの私に、響が聞いてくる。

「うん、なんか……」

ゆっくりと前に向き直りながら、私は呟いた。

「誰かの声が聞こえた気がして……」

すると、ポン、と頭に優しい感触がした。運転席から手を伸ばし、響がよしよしと私の頭を撫でている。

「来年も、必ず来いよ」

「うん。でも、来年は響、東京にいるんでしょ?」

「そうだよ。だから、今度は一緒に帰ろう」

「うん」

「年をとっても、どこに住んでても、毎年絶対帰ろうな。俺たちの故郷に」

「うん、約束だよ」

夏の終わりの空を見上げながら、私は微笑んだ。

高校を出て、大学に行って、社会人になって。

この先楽しいことも辛いこともあるだろうけど、それでもこの町がここにあるなら。

それだけできっと、私はいろいろなことを乗り越えられると思った。

湖の美しい、この町が私を待っていてくれるなら――。