響がもう一度大きくハンドルを切れば、目の前は広大な湖だった。
エメラルドグリーンの水面が、太陽の光を受けて淡く輝いている。

夏の初めの、漲るような輝き方とは違う。

まるで夏が過ぎ去るのを名残惜しむかのような、儚い輝き方だった。

「綺麗だね、ここはいつまでも変わらないね」

湖のきらめきに吸い込まれるように、目が離せなくなる。

風に吹かれて、水面には円状の波紋が出来ていた。
じわじわと広がり、やがて風化するように溶けてなくなってしまう。

それを人知れず、音もなく繰り返している。

「変わらないよ。変わってたまるか。前に湖畔にリゾート施設建設の話が持ち上がってたんだけどさ、全力で阻止してやった。町の人の署名を集めてさ」

「響が率先してやったの?」

「そうだよ」

言いながら、響は一瞬だけ窓の向こうの湖に目を向ける。

「どうしてかは分からないけど。あの湖だけは、命に代えても守らなくちゃいけないって思ってるんだ」