皐月は車で過ぎ行く私に向けて手を振りながら、よりいっそう目を細めた。

「おかえり、優芽」

「ただいま、皐月」

皐月の顔がしっかり見れたのは一瞬のことで、車はすぐに祠の前を過ぎ林道へと入っていった。強風が吹いたのか、竹林がザワザワと激しく揺れている。

「良かったわね、皐月くん。元気そうじゃない」

「うん。病気が大分よくなったみたい」

ボート小屋の息子である皐月は、子供の頃深刻な病気にかかっていて、家にこもっていることが多かった。だけど何年か前から奇跡的に回復しはじめて、徐々に私たちと同じように生活できるようになった。

あの分だと、去年よりもさらに良くなったみたい。
嬉しくなって、自然と顔が綻んだ。

まるで太陽の熱を直に浴びたみたいに顔が熱いのは、きっと気のせいではないだろう。