「大丈夫だよ。また夏が来れば、優芽は僕を思い出す。そして僕らはもう一度恋に堕ちる。繰り返し、何度も……」

「でも……。私はいつか年をとっておばあさんになって死んじゃうわ。そうなれば、きっと皐月は私を好きにならない」

どうして、と皐月は首を傾げた。

そして僅かに体を離すと、猫に似た瞳を愛しげに細めてくれる。

「おばあさんになっても、湖の上を漂う蜃気楼になっても、僕はずっとずっと、君に恋をするよ」

「皐月は、それでいいの? 幸せなの?」

とめどなく、涙が頬を伝った。

「幸せだよ」

皐月は穏やかに答える。

「覚えていないだろうけど、毎年優芽は僕のためにこうやって泣いてくれる。だから幸せだよ」

「今夜は、ずっとこのままでいい……?」

「もちろん。毎年そう言う優芽が、かわいくて仕方ないんだ」

耳もとの髪の毛を、皐月は指先で優しく梳いてくれる。

皐月の胸の温もりが、愛しくて、尊くて、離したくなくて。

誰もいない田舎の湖畔。

風もないのに水面がさざめく夏の宵。

私たちは互いの温もりを閉じ込めるように、強く抱き合った。

たとえ明日になり、皐月のことを思い出せなくなっても、記憶の奥底に少しでもこの想いをとどめたかった。