頭からつま先にかけて、力がすうっと抜けていくような感覚がした。

頭の中はこんがらがっているのに、胸の奥ではなぜか納得している。

「優芽、大丈夫か?」

そんな放心状態の私の頬に、響が優しく手を添えてくれる。

「ごめん、今の忘れて」

震える声をどうにか出し、響に背を向ける。

「どこ行くんだよ?」

「ちょっと、確かめたいことがあって……。ごめん、響。今日はもう会えない」

家に戻った私は、大急ぎで階段を駆け上がった。

「優芽、もう行ってきたの?」

もちろん、奥から飛んできたお母さんの声にも答える余裕なんかない。

バクバクと震える心臓は、今にも壊れてしまいそうだった。

自分が息をしているのかいないのか。地に足をつけているのかいないのか。

そんなことすら曖昧の、まるで抜け殻のような状態で、どうにか部屋に入るとドアを閉じる。そして、壁に飾られたコルクボードに近づいた。

コルクボードには、子供の頃に湖畔で撮った写真が相変わらず貼られていた。

いたずらっ子さながらの笑みを浮かべる、日方と彼方。
そして彼らに挟まれるようにして、しぶしぶ笑っている響。

日の当たる湖から距離を置いて、木陰に小さな影が映っている。

そこではにかんだ笑みを浮かべていたのは――皐月ではなく、おかっぱ頭の私だった。