祭りの宵が、暮れていく。

盆踊りが終わり境内にいる人の数もまばらになった頃、拝殿の手前の石灯籠の辺りで数人の友達と話している響を見つける。

私に気づくと、響は怒ったような顔でこちらへと近づいて来た。

「優芽、お前どこ行ってたんだよ。急にいなくなるから心配しただろ」

そう言ったあとで、響ははたと視線を止める。
響の目線の先には、繋がれたままの私と響の掌があった。

「そっか」

呟いたあとで、ゆっくりと響は微笑んだ。

「お前ら、付き合うことになったんだ。雰囲気でわかるよ。良かったな」

「うん……」

申し訳ない気持ちで頷けば、「そんな顔するなよ」と響は私の不安を和らげるように笑ってくれた。

「おめでとう、皐月。やっぱお前はかっこいいよ」

皐月に顔を向け、響が言う。

「優芽。お前にさ、ひとつ言ってなかったことがあるんだ」

「言ってなかったこと?」

「小五の夏に、湖で溺れていた優芽を助けたのは、本当は俺じゃなくて皐月なんだ」

バツが悪そうに、響が頭をかく。

「えっ、そうなの?」

皐月を見上げれば、皐月は黙って響を見つめているだけだった。

「あの時、俺と皐月は同時に優芽を見つけたんだ。それでどっちが助けるって話になって、俺は怖気づいてしまった。でも皐月は、迷いなく優芽を助けるって奥深く潜って……。すごく、かっこよかったよ」

それなのに、と響は困惑したように言葉を繋ぐ。

「どうしてだろ。俺は自分が優芽を助けたなんて嘘を周りに言いふらしててさ。あー、はずかしい。ごめんな、皐月」

皐月に、頭を下げる響。

「でも、良かったよ。お前らふたり、すごくお似合いだ。優芽をよろしくな、皐月」

「うん、わかった」

「じゃあ、俺は先に帰るわ」

くるりと私たちに背を向けた響を、皐月が「待って」と呼び止めた。

提灯の明かりがひとつ、またひとつと消えゆく境内で、響がこちらを振り返る。

「ありがとう、響」

「おう」

響は小さく手を上げて皐月の声に答えると、再び私たちに背を向け、やがて人ごみに紛れ見えなくなった。

まるで名残を惜しむように、見えなくなった響に皐月はいつまでも手を振っていた。