「私も、皐月が好き……」

すると皐月は、子供みたいな無邪気な笑みを浮かべた。

「それじゃあ、今夜から僕達恋人どうしだね」

いつの間にか、境内から響く笛と太鼓の音が耳に戻っている。
まるで湖の底から地上に戻った時のように、止まっていた世界が動き出す。

熱風が屋台の香りと楽しげな人々の声を運び、仄かに湖の匂いも漂わせる。
境内からの光に顔の半分だけを照らされた皐月は、「お祭り、行こっか」と私の手をきつく握りしめた。

「うん」

どうにか答えたけど、自分の顔にありえないほど熱が集まっているのがわかる。

もしもこの世で一番幸せな人は誰かと問われたら、迷いなく今の自分だと答えただろう。

皐月の手のぬくもりがあれば、もう他には何もいらないと思った。

そんな生まれて初めての満ち足りた気持ちを噛みしめながら、私は皐月とお祭りを楽しんだ。

お面屋でお面を買って、金魚すくいにリベンジする。

「皐月、すごい! 四匹もとれるなんて」

皐月のとってくれた金魚は四匹の赤い金魚だった。

「かわいい彼女に特別サービスだ」

そう言って、屋台のおじさんが黒い出目金を一匹加えてくれた。

透明のビニール袋の中で、四匹の赤い金魚と一匹の黒い金魚が、楽しげにゆらゆらと泳いでいた。