提灯の明かりだけが頼りの境内で、響と綿菓子を買っておみくじをして盆踊りを見た。

金魚すくいの屋台を眺めていると、響が「俺がとってやる」と言いだした。
だけど一匹も取れなくて、響は肩を落としていた。

そういえば、去年も同じようなことがあった気がする。
細かい作業が苦手な響は、金魚すくいが得意ではない。

「響、頑張ってくれてありがとう」

項垂れている響に声をかければ、響は少しだけ笑顔を取り戻してくれた。

その時。

『トントン、トントン』

不思議な声が耳もとで響き、私ははっと顔を上げた。

間違いない。前に聞いた声と、一緒だ。

『トントン、トントン』

必死に辺りを見回せば、人々であふれかえる境内の向こう、鬱蒼と生い茂る竹林の中に白い顔が見えた。

狐のお面にかすりの着物。いつかの晩の、狐のお面の男の子だった。

狐の子は私と目が合うと、手招きをして竹林の中へと走り去っていく。

「待って!」

気づけば、私は無我夢中で走り出していた。

人々の隙間を縫い、竹林の中へと入り込む。

竹ばかりの真っ暗な山の中で、ぼんやりと光が浮かび上がるかのように、奥へ奥へと駆けて行く狐の子の後姿が見えた。

「あなたは……、誰なのっ?」

息せき切りながら、声を絞り出すように叫んだ時。突如ぐらりと視界が変わり、お尻に強い衝撃を感じた。

「いったぁ……」

竹林の中、まるで誰かが細工したみたいに、突如ぽっかりと穴が開いていた。勢い余ってそこに落下した私は、穴の底で派手な尻餅をついたのだ。

せっかくお母さんに着つけてもらった浴衣が、土にまみれて乱れてしまった。
お尻をさすりながら、よろよろと立ち上がる。

穴は私の背丈よりも深く、簡単には登れそうにない。

どうにか土壁に手足をかけても、滑ってまたすぐに尻餅をついてしまう。

途方に暮れた私は、穴の奥底に座り込んだまま上空を見上げた。

境内からそんなに遠く離れてはいないはずなのに、ここには笛の音も人々の喧騒も届かない。

夜風にサワサワと揺れる竹の音だけが、まるで生き物の鳴き声みたいに響いていた。

辺りは信じられないほどに真っ暗で、見える明かりと言えば月の色だけだ。

湖に落ちたときの状況に重なって、胸の奥底から恐怖心が這い上がってきた。

怖くて、怖くて。

闇に、見えない何かに、今にも食べられてしまいそうで。

不安で、悲しくて……。