私がお母さんの実家があるこの町で過ごしたのは、小学五年生の終わりまでだった。

お母さんが再婚し東京に移り住んでからは、毎年この場所は夏を過ごすためだけに来る。

森林に囲まれたこの小さな町は、気候が穏やかで、夏を過ごすには最適だ。

みんな、元気にしてるだろうか?
窓を開けっ放しにしたまま幼馴染たちの顔を順に思い浮かべていると、ふいにお母さんが言った。

「優芽。あれ、皐月くんじゃない?」

湖の途切れた先は、竹林の道になっている。その手前に山の上へと続く長い石段があり、石段を登った先には”龍天神”と呼ばれる竹林に囲まれた神社がある。

ふもとには、しめ縄が巻かれお神酒の供えられた小さな祠があった。
祠の前に、黒髪の男の子が立っている。

「本当だ、皐月だ」

ダークグレーのTシャツに黒のハーフパンツというラフな出で立ちの皐月は、私が気づく前からすでにこちらを見ていた。そして、私と目が合うとにこっと人懐っこい笑みを浮かべる。

男にしては色白の肌に、猫に似た切れ長の瞳。去年より少しだけ背が高くなったけど、思いのほか変わっていなくてなんだかホッとした。笑うと途端に子供っぽくなる笑顔もそのままだ。