その時だった。

「カアッ!!!」

突如上空から舞い降りて来たカラスが、私の目前を横切った。
耳もとでバササッと激しい羽音が響き、視界を黒い羽が乱舞する。

「きゃあっ!」

よろめいた私は、そのまま前のめりに石段から転げ落ちそうになる。
だけど、石段を登ってきた誰かに強く抱きとめられた。

「大丈夫?」

見上げれば、皐月の顔があった。猫に似た切れ長の瞳に、優しい笑みを携えた口もと。

見た目では分からない皐月の胸板の厚さに、赤面してしまう。色白で細く見えるけど、やっぱり男の子なんだと改めて感じた。

まるで壊れ物を扱うように柔らかく私を抱き締めてから、皐月は私を体から離す。

その何気ない行動に羞恥心が込み上げてきて、皐月の顔がまともに見れない。

「皐月、いつ来たの?」

もじもじしながら問えば、「たった今」と穏やかな返事が返ってきた。

「嘘? 全く、気配なかったよ」

「階段から来たんじゃなくて、竹林を抜けて来たんだ。この辺りのカラスは素行が悪いから、気をつけて」

そう言うと、皐月は「やあ」と響に挨拶をする。

心なしか気持ちの晴れないような顔で「おっす」と響がそれに答えた。

「おーっ、やっと頂上についたぜ!」

「ていうか皐月、いつの間に来てたんだよ」

提灯を付け終えた日方と彼方が、ようやく私たちの前に姿を見せた。

「ついさっき。作業も終わったことだし、みんなでお参りしようよ」

皐月は笑顔で双子を迎え入れると「行こ、優芽」と私を誘って境内の奥へと進んでいく。

「は? 皐月、後から来といて何だよそのリーダー気取りは」

「だいたいお前、何もしてねーじゃん。提灯つけてねーじゃん」

騒ぎ出した双子を振り返ることなく、皐月は私を連れてずんずん手水舎の方へと歩んで行く。