Rホテルは近年都市開発が盛んな西新井にある。駅前には大型の商業施設が出来上がり、バベルの塔のように高級マンションが何棟もそびえ立つ。西新井の地価は軒並み高騰しているともっぱらの噂だが、高級マンションの空室があからさまに目立つと不動産
業者が嘆いているとも聞く。
来てしまった、思わず私はRホテルを見上げながらつぶやいた。高級マンション群が少し離れた場所にヴェルサイユ宮殿のように堂々と建てられている。だからといってそこまで華美ではない。シンプルな外観だ。日本人は情緒を重んじる。それに、足立区に華美は似合わない。どこが雑然としてる方が街の魅力を助長する。
一度は入ってみたいと思ったRホテル。というのもサービスの質が良いと評判だ。主婦仲間の一人曰く、『燃える』とのことだ。何が、『燃える』のかは容易に想像がつく。
セックス。
男と女が交わる究極の営み。人間は交わるのが好きだ。むしろ女の私のですら、妄想の中では魅力的な男とのその後の展開をストーリーテラーさながらに構築する。が、思うようにいったことはない。それがストーリーの醍醐味であり、人を惹きつける部分でもある。不安半分、興奮半分、の私はRホテルの自動扉をくぐる。煌びやかな照明に思わず顔をしかめ、待ってましたと言わんばかりに背筋をピンと伸ばしたホテルマンが、「三〇三です」と丁重な口調とふわりとした笑みで出迎える。
「えっ!な、な、なんでわかったんですか」
私は思わずどもる。
そんなことは意に返さずふわりとした笑みを讃えたままホテルマンは、「伊勢様は上客ですので。私どもは常に心得ております」と添える。
うん。理由になっていない。伊勢という人物は、行く先々で上客なんだな、と意味もなく、私は納得する。あちらです、とホテルマンが左方向にあるエレベーターを指を差す。
「せっかくだから階段で行こうかしら。運動不足だし」
と私は天邪鬼な対応で応戦する。しかしホテルマンはふわりとした微笑を維持する。ここまでふわりと表情を作られると義務的に見え、さらには作り物めいて見えるので、なんか怪しい。気持ち悪い、の二歩手前。たしかにサービスの〝質〟という点では良さげな雰囲気はあるが、度を超すと、個人的な感想を述べるなら、気持ち悪い。
あちらです、と今度はホテルマンが自動扉を入った正面を指さす。階段がある場所は私でも見ればわかる。親切心か老婆心の中間で言ってもらっているのだろうが、そこまで疎くはない。だって目の前に螺旋階段があるのは誰に目に見ても明らかなのだから。
「西欧をイメージしてるんです」
だから私そんなこと訊いてない。ちょっと急ぐから、とホテルマンをやり過ごし、ハイヒールをカツカツと空間内に響かせ螺旋階段を時計回りに昇る。ふとさっきのホテルマンが気になり手すりを掴みながら見下ろす。
エクセレント。
じっくりとふわりとした微笑そのままにピンと背筋を伸ばしてこちらを見ている。だから。気持ち悪いし、ナチスヒトラーがこの世にいたら確実に、あなたという人物は重宝されたわ、ね。という笑みを私は讃えながら会釈し三〇三号室に向かう。
ホテルマンは西欧をイメージといったが、内装は都心にあるグランドホテルと対して変わらない。まあ、足立区という犯罪発生率が高い街で高級感溢れるホテルが出来たということが時代の流れを感じる、
私は三〇三号室の前に立ち、カードキーがないことに気づいた。仕方がないのでノックを二回する。
静寂。
ホテル内で人を見たのはホテルマンのみ。人の気配がしない。新手の防音設備を施してあるのだろうか。その思考を遮るように扉がカチッと適切な音を響かせ開いた。
「来ると思ったよ」
そこには爽やかな笑みを讃えた伊勢がいた。
部屋に入るなり、シャンパンが入ったグラスを持たされた。お互い声なきまま、カチリと合わせたグラス音だけが響いた。紺と白のストライプのカーテーンで窓を遮断し、蛍色の仄かな明かりだけが部屋にともっていた。一歩間違えれば祈祷や魔術を行っていると思われそうな部屋明かりである。さらには大型のダブルベッドが王政のように毅然とした態度で存在し、枕元にはその後の顛末を予見するようにコンドームが三個並べられていた。
三回戦は勘弁。
私の視線の先に気づいたのか、額の皺をアイロンに伸ばしたように整え伊勢は笑みを見せた。そして私にゆっくりと近づく。その際にグラスの中身を一気に飲み干し丸テーブルに置く、という器用さを彼は見せた。どうやらこの状況は流れに身を任せるしかなさそうだと、私は原をくくる。
「刺激が欲しいだろ」
伊勢が私の腰に手を回し耳元で囁いた。それが導火線のように、地雷原を踏みならしたように、私の人体内部は着火され、驚く事に伊勢の筆で描いたような唇を貪っていた。互いが互いの舌を絡ませ、吸い、絡ませ、吸う。そこに一種のリズムが生まれていた。身体の相性というのは少なからずこういう微細な部分に表れると私は思っている。それでいてそのリズムテンポが上がるにつれ一枚一枚器用に服を脱がされ、私の火照った身体が日の目を見る。太い手と太い指が乳房を荒々しく沼地で喘ぐ馬のように漁り、乳首を転がす。皺ひとつのないダブルベッドのシーツの上に私は押し倒され、彼は全身を舐め回す。舌使いは流麗で、ときに緩急をつける。その際にちらちらと私の顔を確認する。あら、やだ。彼の額に皺が寄っている。アイロンが必要。とばかりに私は舌を使い彼の額を舐め回す。もちろん効果がないのはわかっている。しかしそうしたくなる皺なのだ。私は口で彼の切れ味鋭いブーメランを研ぎコンドームを口に咥えブーメランに装着させる。それが私を射抜く。射抜く。射抜く。思わず声が漏れ、その度にガラスが割れたような音と地響きが全身に連打された。
「君を街で見かけたとき、同じ匂いを感じた。満たされてないんだろう?ビジネスをしてみないか?」
事が終わった後、紫煙をくゆらせながら伊勢が言った。
「どんなビジネス?」
私はシャンパンを一口の飲み、グラスを回す。それにしてもセックスがこんなにも官能的観念的で快感をもたらすものだとは思わなかった。二回戦もありかもしれない。
「人の死だ」
そんな私の思惑とは対照的に伊勢から冷淡で端的な口調が返される。
「冠婚葬祭?」
ふっと彼は鼻で笑い煙が宙を舞った。「それは死者を弔うビジネス。俺のは死にたいと望んでいる者、または必要に生じて減らす義務を負う」
伊勢が『スムーズ』の時とは違い〝私〟ではなく〝俺〟と名乗った変化に気づくと共に今一彼のビジネスが概要が私に掴めないでいた。
「それって、直接手を下して生きた人間を葬るってこと?」
「簡潔明瞭で実に的を得た答えだ」と伊勢は口角を上げ、私にキスをした。「開発された薬を飲ませれば自然な死に見える」
「でも、それって殺すのと同義じゃない」
私は彼の顔を見る。紫煙がもくもくと鎮魂のように天井に立ち昇る。
「同義?考えてみて欲しい。これはれっきとしたビジネスだ。たしかに表沙汰にはできない。そんなことは今の世の中では当たり前のことだ。詐欺師が詐欺を働いて多額の金銭をだまし取り、その金を元手にIT会社を立ち上げる。ITに限らず、罪を犯した人間が法で裁かれることなく、社会の表舞台に出れる時代なんだ。それらは不条理だろ」
伊勢は煙草を灰皿に押しつけ消した。
「でも、不条理こそ人生よ」
「君からそんな言葉がでてくるとは思わなかったな。だが、そういう連中を葬ることが一つ。さらに権力の依頼もある」
「権力?」
「ああ」と伊勢は煙草に火をつけ煙を吐き出す。「増え続ける人口に歯止めがかからない。いくら新エネルギーだ、火星移住計画と言っても、所詮今は絵空事に近い。資源はいずれ枯渇し、食料、水不足が起きるだろう。すると何が起きる?」
伊勢の問いに私は考えた。物質的なものに恵まれた私はそこまで不自由さを実感することはない。お腹が空けば気軽に立ち寄り、または調理し、電気を使い、料金を払い、生活を営む。それが普通だ。もし当たり前と思っている日常が突然壊され、非日常のような私が今までに体感したことのない現実にが待ち受けるのかもしれない。
そうだ。腹を空かせた大人を思い浮かべるといい。イライラし、どこか不機嫌で、近づいていはいけないオーラを出す。三大欲求の内、性欲は抑えられるとしても、食欲、睡眠良くは難しい。じゃあ、食が制限され、思う存分食べれる自体を得ることができなかったら?それは歴史が物語っているのではないか。決して得意ではなかった勉強の知識をフル動員し、私は結論を出す。
「戦争です」
「随分、思考時間が長かったな。そう、君の言う通りだ。奪い合いが始まる。なので減らしていく。これは始まりに過ぎない。既にネットワークは世界に張り巡らされている。だから俺が機能しなくなっても変えはたくさんいる。誰がボスかはわからない。俺かもしれないし、他の誰かかもしれない。蜘蛛が罠を張ったら何もしないのと一緒で、手足を切断されようがまた再生するのと一緒だ。報酬は一件、二百万。回数を重ねるごとに一本ずつ報酬は上澄みしていこう。やる価値はあるんじゃないか?君は刺激と満たされな自分に憤りを感じている。一度やってみて合わなければ辞めればいい」
その言葉に私が鼻で笑う番だった。「ここで断っても、さらには一度引き受けて、それで辞めた場合の私の末路は、死でしょ?」
彼は鼻をヒクヒクさせ嬉しそうな表情をしていた。気づけば彼の煙草は消え、灰皿にカウントされていた。屍のように。
「君は理解が早い。俺の裏の顔を知ってしまったし。事の次第を喋ってしまったからには、君に選択肢はない。いわゆる白紙委任状だよ。君は判を押すだけでいい。契約要項は俺の思うが儘」
伊勢が私の唇を再度奪う。私は煙草の味に顔をしかめたが、数秒後には目を閉じ、二回戦に突入した。それは私の同意の印でもあった。子供の成長は親の成長。たしかにそれはわかる。それでも私は一人の女として刺激が欲しい。その日は、わずか数時間でコンドーム三個分をきっちりと使い切り、半ば放心状態で家路に帰宅した。豊の姿はまだ無く、子供達はいつもの通りぐっすりと寝ていた。私はシャワーを浴び、愛欲臭をきっちりと洗い流し、依頼を待つ事にした。
業者が嘆いているとも聞く。
来てしまった、思わず私はRホテルを見上げながらつぶやいた。高級マンション群が少し離れた場所にヴェルサイユ宮殿のように堂々と建てられている。だからといってそこまで華美ではない。シンプルな外観だ。日本人は情緒を重んじる。それに、足立区に華美は似合わない。どこが雑然としてる方が街の魅力を助長する。
一度は入ってみたいと思ったRホテル。というのもサービスの質が良いと評判だ。主婦仲間の一人曰く、『燃える』とのことだ。何が、『燃える』のかは容易に想像がつく。
セックス。
男と女が交わる究極の営み。人間は交わるのが好きだ。むしろ女の私のですら、妄想の中では魅力的な男とのその後の展開をストーリーテラーさながらに構築する。が、思うようにいったことはない。それがストーリーの醍醐味であり、人を惹きつける部分でもある。不安半分、興奮半分、の私はRホテルの自動扉をくぐる。煌びやかな照明に思わず顔をしかめ、待ってましたと言わんばかりに背筋をピンと伸ばしたホテルマンが、「三〇三です」と丁重な口調とふわりとした笑みで出迎える。
「えっ!な、な、なんでわかったんですか」
私は思わずどもる。
そんなことは意に返さずふわりとした笑みを讃えたままホテルマンは、「伊勢様は上客ですので。私どもは常に心得ております」と添える。
うん。理由になっていない。伊勢という人物は、行く先々で上客なんだな、と意味もなく、私は納得する。あちらです、とホテルマンが左方向にあるエレベーターを指を差す。
「せっかくだから階段で行こうかしら。運動不足だし」
と私は天邪鬼な対応で応戦する。しかしホテルマンはふわりとした微笑を維持する。ここまでふわりと表情を作られると義務的に見え、さらには作り物めいて見えるので、なんか怪しい。気持ち悪い、の二歩手前。たしかにサービスの〝質〟という点では良さげな雰囲気はあるが、度を超すと、個人的な感想を述べるなら、気持ち悪い。
あちらです、と今度はホテルマンが自動扉を入った正面を指さす。階段がある場所は私でも見ればわかる。親切心か老婆心の中間で言ってもらっているのだろうが、そこまで疎くはない。だって目の前に螺旋階段があるのは誰に目に見ても明らかなのだから。
「西欧をイメージしてるんです」
だから私そんなこと訊いてない。ちょっと急ぐから、とホテルマンをやり過ごし、ハイヒールをカツカツと空間内に響かせ螺旋階段を時計回りに昇る。ふとさっきのホテルマンが気になり手すりを掴みながら見下ろす。
エクセレント。
じっくりとふわりとした微笑そのままにピンと背筋を伸ばしてこちらを見ている。だから。気持ち悪いし、ナチスヒトラーがこの世にいたら確実に、あなたという人物は重宝されたわ、ね。という笑みを私は讃えながら会釈し三〇三号室に向かう。
ホテルマンは西欧をイメージといったが、内装は都心にあるグランドホテルと対して変わらない。まあ、足立区という犯罪発生率が高い街で高級感溢れるホテルが出来たということが時代の流れを感じる、
私は三〇三号室の前に立ち、カードキーがないことに気づいた。仕方がないのでノックを二回する。
静寂。
ホテル内で人を見たのはホテルマンのみ。人の気配がしない。新手の防音設備を施してあるのだろうか。その思考を遮るように扉がカチッと適切な音を響かせ開いた。
「来ると思ったよ」
そこには爽やかな笑みを讃えた伊勢がいた。
部屋に入るなり、シャンパンが入ったグラスを持たされた。お互い声なきまま、カチリと合わせたグラス音だけが響いた。紺と白のストライプのカーテーンで窓を遮断し、蛍色の仄かな明かりだけが部屋にともっていた。一歩間違えれば祈祷や魔術を行っていると思われそうな部屋明かりである。さらには大型のダブルベッドが王政のように毅然とした態度で存在し、枕元にはその後の顛末を予見するようにコンドームが三個並べられていた。
三回戦は勘弁。
私の視線の先に気づいたのか、額の皺をアイロンに伸ばしたように整え伊勢は笑みを見せた。そして私にゆっくりと近づく。その際にグラスの中身を一気に飲み干し丸テーブルに置く、という器用さを彼は見せた。どうやらこの状況は流れに身を任せるしかなさそうだと、私は原をくくる。
「刺激が欲しいだろ」
伊勢が私の腰に手を回し耳元で囁いた。それが導火線のように、地雷原を踏みならしたように、私の人体内部は着火され、驚く事に伊勢の筆で描いたような唇を貪っていた。互いが互いの舌を絡ませ、吸い、絡ませ、吸う。そこに一種のリズムが生まれていた。身体の相性というのは少なからずこういう微細な部分に表れると私は思っている。それでいてそのリズムテンポが上がるにつれ一枚一枚器用に服を脱がされ、私の火照った身体が日の目を見る。太い手と太い指が乳房を荒々しく沼地で喘ぐ馬のように漁り、乳首を転がす。皺ひとつのないダブルベッドのシーツの上に私は押し倒され、彼は全身を舐め回す。舌使いは流麗で、ときに緩急をつける。その際にちらちらと私の顔を確認する。あら、やだ。彼の額に皺が寄っている。アイロンが必要。とばかりに私は舌を使い彼の額を舐め回す。もちろん効果がないのはわかっている。しかしそうしたくなる皺なのだ。私は口で彼の切れ味鋭いブーメランを研ぎコンドームを口に咥えブーメランに装着させる。それが私を射抜く。射抜く。射抜く。思わず声が漏れ、その度にガラスが割れたような音と地響きが全身に連打された。
「君を街で見かけたとき、同じ匂いを感じた。満たされてないんだろう?ビジネスをしてみないか?」
事が終わった後、紫煙をくゆらせながら伊勢が言った。
「どんなビジネス?」
私はシャンパンを一口の飲み、グラスを回す。それにしてもセックスがこんなにも官能的観念的で快感をもたらすものだとは思わなかった。二回戦もありかもしれない。
「人の死だ」
そんな私の思惑とは対照的に伊勢から冷淡で端的な口調が返される。
「冠婚葬祭?」
ふっと彼は鼻で笑い煙が宙を舞った。「それは死者を弔うビジネス。俺のは死にたいと望んでいる者、または必要に生じて減らす義務を負う」
伊勢が『スムーズ』の時とは違い〝私〟ではなく〝俺〟と名乗った変化に気づくと共に今一彼のビジネスが概要が私に掴めないでいた。
「それって、直接手を下して生きた人間を葬るってこと?」
「簡潔明瞭で実に的を得た答えだ」と伊勢は口角を上げ、私にキスをした。「開発された薬を飲ませれば自然な死に見える」
「でも、それって殺すのと同義じゃない」
私は彼の顔を見る。紫煙がもくもくと鎮魂のように天井に立ち昇る。
「同義?考えてみて欲しい。これはれっきとしたビジネスだ。たしかに表沙汰にはできない。そんなことは今の世の中では当たり前のことだ。詐欺師が詐欺を働いて多額の金銭をだまし取り、その金を元手にIT会社を立ち上げる。ITに限らず、罪を犯した人間が法で裁かれることなく、社会の表舞台に出れる時代なんだ。それらは不条理だろ」
伊勢は煙草を灰皿に押しつけ消した。
「でも、不条理こそ人生よ」
「君からそんな言葉がでてくるとは思わなかったな。だが、そういう連中を葬ることが一つ。さらに権力の依頼もある」
「権力?」
「ああ」と伊勢は煙草に火をつけ煙を吐き出す。「増え続ける人口に歯止めがかからない。いくら新エネルギーだ、火星移住計画と言っても、所詮今は絵空事に近い。資源はいずれ枯渇し、食料、水不足が起きるだろう。すると何が起きる?」
伊勢の問いに私は考えた。物質的なものに恵まれた私はそこまで不自由さを実感することはない。お腹が空けば気軽に立ち寄り、または調理し、電気を使い、料金を払い、生活を営む。それが普通だ。もし当たり前と思っている日常が突然壊され、非日常のような私が今までに体感したことのない現実にが待ち受けるのかもしれない。
そうだ。腹を空かせた大人を思い浮かべるといい。イライラし、どこか不機嫌で、近づいていはいけないオーラを出す。三大欲求の内、性欲は抑えられるとしても、食欲、睡眠良くは難しい。じゃあ、食が制限され、思う存分食べれる自体を得ることができなかったら?それは歴史が物語っているのではないか。決して得意ではなかった勉強の知識をフル動員し、私は結論を出す。
「戦争です」
「随分、思考時間が長かったな。そう、君の言う通りだ。奪い合いが始まる。なので減らしていく。これは始まりに過ぎない。既にネットワークは世界に張り巡らされている。だから俺が機能しなくなっても変えはたくさんいる。誰がボスかはわからない。俺かもしれないし、他の誰かかもしれない。蜘蛛が罠を張ったら何もしないのと一緒で、手足を切断されようがまた再生するのと一緒だ。報酬は一件、二百万。回数を重ねるごとに一本ずつ報酬は上澄みしていこう。やる価値はあるんじゃないか?君は刺激と満たされな自分に憤りを感じている。一度やってみて合わなければ辞めればいい」
その言葉に私が鼻で笑う番だった。「ここで断っても、さらには一度引き受けて、それで辞めた場合の私の末路は、死でしょ?」
彼は鼻をヒクヒクさせ嬉しそうな表情をしていた。気づけば彼の煙草は消え、灰皿にカウントされていた。屍のように。
「君は理解が早い。俺の裏の顔を知ってしまったし。事の次第を喋ってしまったからには、君に選択肢はない。いわゆる白紙委任状だよ。君は判を押すだけでいい。契約要項は俺の思うが儘」
伊勢が私の唇を再度奪う。私は煙草の味に顔をしかめたが、数秒後には目を閉じ、二回戦に突入した。それは私の同意の印でもあった。子供の成長は親の成長。たしかにそれはわかる。それでも私は一人の女として刺激が欲しい。その日は、わずか数時間でコンドーム三個分をきっちりと使い切り、半ば放心状態で家路に帰宅した。豊の姿はまだ無く、子供達はいつもの通りぐっすりと寝ていた。私はシャワーを浴び、愛欲臭をきっちりと洗い流し、依頼を待つ事にした。