三十歳を過ぎても豊の精力は衰えない。それでも避妊具は使用した。自分の収入面を気にしているのだろう。彼は二十九歳で方々から借金をしダイニングバーをオープンした。これが全くもって不況も相まってか閑古鳥が鳴いている状態だった。そう過去形なのだ。オープンして数年経ってから風向きが変わった。なにが、どう作用すれば売り上げが上昇気流に乗り、純利益を増益という形で出せるのか、と私は不思議がる。とくにこれといった特徴のないお店だ。季節ものの創作料理があり、世界各国種々雑多なお酒を提供する。たまにバンドを呼んだ日には、ピアノが鍵盤を思いを馳せ、ベースのチューニングが明らかに狂っている。粗と人間臭さが熱を発しているダイニングバーである。たかだが数年で繁盛するお店とも思えない。飲食業の浮き沈みのサイクルは早いと聞く。
「ねえ、ここまで繁盛するのって何かマジックでも使ったの?」
ある日、私は豊の乳首をこねくり回しながら甘い声で訊いた。私という人間も三十歳になり女と母親という二足のわらじの影響と、経験と、自信が魅力的で妖艶な女性に変貌させているのを実感している。なので豊は気が気でないのだろう。毎夜、ベッドに誘いこむ。大丈夫、あなたから逃げたりしないから。でも、魅了的な男がいたら、逃げ出すかも。なんて小悪魔的な私。
「気になる?」
豊が私の髪に触れながら嫌らしい笑みを向ける。私はそれに対して頷いた。焦れったい。男って、なんで含みをもたせるのかしら。やれやれ。
「上客ができたんだ。その人は、方々に絶大なコネクションをもっている。まあ、それでだな」
彼はさらっとナチュラルに言ってのけた。〝上客、コネクション、それでだな〟申し訳ないけど、全くわからない。要領を得ない。それで経営者?笑わせないで。
「ようするにアドバイザー的な役割を担う人物が現れた、ということかしら」私は効果的にその後の顛末を予見するようにより魅惑的に舌を唇で濡らした。彼の喉仏がごくりの鐘を鳴らし、今にも狼か熊か猪のどれか、つまりは獣のに成り下がろうとしていた。
獣。
男は獣よ。どんなに綺麗事を並べようが、セックスか金の話。まあ、豊は不幸中の幸いか子供の成長を温かく見守っている節があるけど。
「いやいや、経営は僕がやっているんだ」
私ったらいけない。豊にも自尊心というものが存在していたのを忘れていた。男ってなんだかんだいってアドバイスという単語を嫌う。何かを己自身でやり遂げた、という達成感が欲しいのだ。それも目の前にいる妻に対しては大半だろう。大概、夫婦仲がうまくいかない家庭は、妻が、ああしろ病に陥り、夫の威厳が低下。働き蟻というよりは、働き雲と化している。そう、家にいても実体があるのか、ないのか判断がつかない。朝起きて、仕事に行って、安いお酒を飲んで、子供が成人になりました。というサイクルを繰り返す。それが当たり前だと思っている。違う、絶対に違う。そんな平凡で非凡さは嫌だ。私は嫌だ。
「なにを興奮しているんだい?なんだか体温が上昇してるなあ」
そう言って豊は私の頬に触れ、ぴんと張った乳首に手を移動させる。んふぅん、と感じていないのに感じているそぶりを私は見せる。さあ、豊。話の続きをしなさい。こんなに官能的な仕草を見せたのだから。
「人との繋がりなんだ。その上客がいつも新しいお客を連れてきてくれて、さらに連れて来たお客がまた別を――ていう具合に」
「でも、なんか怖いわね」
「なぜ?」
「だって、そんなうまい話しってあるかしら」
私は意識的に髪を搔き上げバラの香りを微視的に振りまいた。彼の顔が癒しに包まれているように見える。もしくは目の前を熾天使が舞っているかもしれない。
「まあ、いいじゃないか」と豊は私の唇にキスをし、「そういえば、君に会いたがっていたなあ、上客が」と嬉しそうに言った。
「私に?」
突然の指名に私は驚く。
「そう。男は女性を見ればその器がわかる、とかなんとか御託を並べていたけど。明日あたり店に顔だしてよ。その人来るから」
豊はそう言い、唸りをあげている股間に向けて私の手を誘った。残念ながら女性期間なのだ。まだ、女性であるということを少なからず忘れないでいられる女性日和。なので、今日という日は手と口で旦那様にご奉仕。どうしても私は丸みを帯びた睾丸に興味を抱いてしまう。月みたいだから太陽みたいだから饅頭みたいだから、色々な理由が思いつくが、私は太陽が好きなのだ。温かく、全身を包み込んでくれる慈愛の光が。それと睾丸を結びつけるのはいささか無理があるだろうか。いや、無理はない。だって、睾丸も丸いのだから。睾丸から大木のように樹液と年輪が刻まれた男根に指先を這わせ移動し、上下動を繰り返す。その上下動を繰り返す度に、彼は胸を掴み、乳首を掴み、さりげなく姿勢をずらし、乳首をチュパチュパと舐める。
「君の手技はレッチリのドラムであるチャドスミスを想起させる」
豊は掠れた声で言った。ていうか、それ誰?と内心の疑問を口に出さずフフと声を漏らし、陰茎の上下動を急ピッチで進める。早くピットインからの加速をしろ、と心の中で何度も連打する。
「なにかいいいなよ。とりあえずレッチリ聴いといてよ。上客さんが好きなんだ。話しがスムーズに運ぶ」
私は軽く頷き返し、それから数十秒後に豊の分泌液が私の手の中で発射された。口でやらなくてよかったのは好都合だ。あの味を口内に残した後の寝起きは最悪だ。あたりめを三袋食べてもあんな口臭はしない。
豊の方を見た。すでに眠っていた。寝息を立てていないから死人のようにも見えた。顔を彼に近づける。鼻息が私の耳にかかった。どうやら生きているようだ。それで明日はやることが山積みだ。
レッチリの曲を数曲覚え、豊の上客に会う。やれやれ、明日は長い一日になりそう。夢の中で見えざる上客が黒い影で出現し、私にこう囁いた。「君が必要だ」それに対し私は、「私もです」と答えていた。気づけば朝を迎え、ベッドで寝ていたはずの豊の存在は消え、私は目を閉じた。
「ねえ、ここまで繁盛するのって何かマジックでも使ったの?」
ある日、私は豊の乳首をこねくり回しながら甘い声で訊いた。私という人間も三十歳になり女と母親という二足のわらじの影響と、経験と、自信が魅力的で妖艶な女性に変貌させているのを実感している。なので豊は気が気でないのだろう。毎夜、ベッドに誘いこむ。大丈夫、あなたから逃げたりしないから。でも、魅了的な男がいたら、逃げ出すかも。なんて小悪魔的な私。
「気になる?」
豊が私の髪に触れながら嫌らしい笑みを向ける。私はそれに対して頷いた。焦れったい。男って、なんで含みをもたせるのかしら。やれやれ。
「上客ができたんだ。その人は、方々に絶大なコネクションをもっている。まあ、それでだな」
彼はさらっとナチュラルに言ってのけた。〝上客、コネクション、それでだな〟申し訳ないけど、全くわからない。要領を得ない。それで経営者?笑わせないで。
「ようするにアドバイザー的な役割を担う人物が現れた、ということかしら」私は効果的にその後の顛末を予見するようにより魅惑的に舌を唇で濡らした。彼の喉仏がごくりの鐘を鳴らし、今にも狼か熊か猪のどれか、つまりは獣のに成り下がろうとしていた。
獣。
男は獣よ。どんなに綺麗事を並べようが、セックスか金の話。まあ、豊は不幸中の幸いか子供の成長を温かく見守っている節があるけど。
「いやいや、経営は僕がやっているんだ」
私ったらいけない。豊にも自尊心というものが存在していたのを忘れていた。男ってなんだかんだいってアドバイスという単語を嫌う。何かを己自身でやり遂げた、という達成感が欲しいのだ。それも目の前にいる妻に対しては大半だろう。大概、夫婦仲がうまくいかない家庭は、妻が、ああしろ病に陥り、夫の威厳が低下。働き蟻というよりは、働き雲と化している。そう、家にいても実体があるのか、ないのか判断がつかない。朝起きて、仕事に行って、安いお酒を飲んで、子供が成人になりました。というサイクルを繰り返す。それが当たり前だと思っている。違う、絶対に違う。そんな平凡で非凡さは嫌だ。私は嫌だ。
「なにを興奮しているんだい?なんだか体温が上昇してるなあ」
そう言って豊は私の頬に触れ、ぴんと張った乳首に手を移動させる。んふぅん、と感じていないのに感じているそぶりを私は見せる。さあ、豊。話の続きをしなさい。こんなに官能的な仕草を見せたのだから。
「人との繋がりなんだ。その上客がいつも新しいお客を連れてきてくれて、さらに連れて来たお客がまた別を――ていう具合に」
「でも、なんか怖いわね」
「なぜ?」
「だって、そんなうまい話しってあるかしら」
私は意識的に髪を搔き上げバラの香りを微視的に振りまいた。彼の顔が癒しに包まれているように見える。もしくは目の前を熾天使が舞っているかもしれない。
「まあ、いいじゃないか」と豊は私の唇にキスをし、「そういえば、君に会いたがっていたなあ、上客が」と嬉しそうに言った。
「私に?」
突然の指名に私は驚く。
「そう。男は女性を見ればその器がわかる、とかなんとか御託を並べていたけど。明日あたり店に顔だしてよ。その人来るから」
豊はそう言い、唸りをあげている股間に向けて私の手を誘った。残念ながら女性期間なのだ。まだ、女性であるということを少なからず忘れないでいられる女性日和。なので、今日という日は手と口で旦那様にご奉仕。どうしても私は丸みを帯びた睾丸に興味を抱いてしまう。月みたいだから太陽みたいだから饅頭みたいだから、色々な理由が思いつくが、私は太陽が好きなのだ。温かく、全身を包み込んでくれる慈愛の光が。それと睾丸を結びつけるのはいささか無理があるだろうか。いや、無理はない。だって、睾丸も丸いのだから。睾丸から大木のように樹液と年輪が刻まれた男根に指先を這わせ移動し、上下動を繰り返す。その上下動を繰り返す度に、彼は胸を掴み、乳首を掴み、さりげなく姿勢をずらし、乳首をチュパチュパと舐める。
「君の手技はレッチリのドラムであるチャドスミスを想起させる」
豊は掠れた声で言った。ていうか、それ誰?と内心の疑問を口に出さずフフと声を漏らし、陰茎の上下動を急ピッチで進める。早くピットインからの加速をしろ、と心の中で何度も連打する。
「なにかいいいなよ。とりあえずレッチリ聴いといてよ。上客さんが好きなんだ。話しがスムーズに運ぶ」
私は軽く頷き返し、それから数十秒後に豊の分泌液が私の手の中で発射された。口でやらなくてよかったのは好都合だ。あの味を口内に残した後の寝起きは最悪だ。あたりめを三袋食べてもあんな口臭はしない。
豊の方を見た。すでに眠っていた。寝息を立てていないから死人のようにも見えた。顔を彼に近づける。鼻息が私の耳にかかった。どうやら生きているようだ。それで明日はやることが山積みだ。
レッチリの曲を数曲覚え、豊の上客に会う。やれやれ、明日は長い一日になりそう。夢の中で見えざる上客が黒い影で出現し、私にこう囁いた。「君が必要だ」それに対し私は、「私もです」と答えていた。気づけば朝を迎え、ベッドで寝ていたはずの豊の存在は消え、私は目を閉じた。