脚本を加筆修正

時刻は、22時55分。


小学校の周りには、応援のパトカーやら救急車やらでごった返している。



「救急車なんて呼ばなくても、手当てぐらい自分で出来るんだけどな。」


「そりゃそうだけど、ナイフで切ったんだし。それに呼んじゃったんだから仕方がないじゃない。」



救急車の側で左腕に巻かれた包帯を見ながら、静音と玲斗は苦笑する。



椎名と橘がパニックになったまましてしまった報告がマズかったのだろう。


静音が怪我をしたと勘違いし、慌てた要が救急車を要請してしまったのだ。


ただ、自分で手当て出来るとはいえしてもらった方が良いに決まっているから、暗に不要とはいえない。



「鏡鵺、どうなるの?やっぱりこれのせいで罪重くなる?」



これ、とはもちろん左腕の包帯……ナイフで切りつけたことだ。



「刑を決めるのは私達じゃないけど多分ね。玲斗がいなかったら私を殺す気満々だったし。」



だけど、本当の気持ちを見れた気がすると静音は思う。


何故なら、到着した仁科に連れられパトカーへと乗り込んだ鏡鵺が、こっちを見て笑ったから。



地獄が始まる前の、ヤンチャで明るい悪ガキの顔を見れたから。

「すまんな、色々。」


「いえ。橘から目を離した俺の責任ですし、千影鏡鵺が潜んでいたのにも誰一人気付きませんでしたし。椎名さんは何というか……まぁ、丸く収まったようで良かったです。」



篠宮と来栖は、鏡鵺が自分達の存在を知らないにも関わらず隙を付く形で静音への接近を許し、しかもお互いに、お互いの相棒を止められなかったと自らの注意力の無さに、これまたお互いに呆れた。



「千影鏡鵺を見失った件については、こちらできっちり処分を検討しますので。」


「……まあ、ほどほどに。」



この場にも来させてもらえなかった卍擽は、厄塒の相当な怒りを買ったようだ。


厄塒は落ち着いているように見えるが、顔が強張っていてまだ怒りが収まらないらしい。



篠宮は刺激しないように、来栖にいたっては会釈で返した。



「椎名さん、行かなくていいんですか?あれだけ啖呵切ったのに。」


「啖呵って喧嘩じゃないんだけど……いいよ、今は。」



遠目に見る静音と玲斗。


自分には決して割り込めない絆がそこにはある。



だけど、自分の言葉が、想いが、届いて嬉しかった。


告白よりも、とても意味のあることだから。

「ごめん。私さ、玲斗が犯人だと思ってた。同窓会で追っかけて来たし、診療所にも誘うし。岨聚が目覚めた後のこと、気にしてなかったみたいだったから。」



椎名に玲斗がもしかしたらと問われた時、我を忘れたのはこのせいだ。


静音ももしかしたらと、心の奥底で疑っていた。



疑っていたからこそ、晴らしたくて探っていたのだが。



「じゃ、プロポーズ断ったのも、僕が犯人だと思ってたから?」


「ううん、それは違う。母さんと、莉央にぃと深緒ねぇのことがあったから。気持ちはそっちにいってたし、今考えても玲斗はやっぱり友達。」



「そっか。」



友達と言い切る静音に、本当に無理なのだと悟った。



「柊!そろそろ。」


「分かりました。」



仁科が静音を呼ぶ。


後処理も終わったらしい。



「玲斗、さっき鏡鵺と3人で話したこと全部、また話してくれる?」


「分かった。」



盗聴機で筒抜けとはいえ、調書は取らなくてはならない。


面倒な杓子定規であるが致し方ない。



「静音。」


「うん?」



車に向かおうとして、何故か踵を返した玲斗。


不思議な顔の静音を軽く抱き締める。





















『                          』             :
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「じゃ、また連絡ちょうだい。今度は本当の携帯番号で。」



耳元で囁いた後ニッコリ微笑むと、固まる静音をそのままに離れた。



「僕はこれで。明日伺います。」


「……ええ。お願いします。」



不自然なくらいのトーンで仁科は返答するし、突然のことに静音以外も驚きを隠せなかった。



「ただいま戻りましたー」


「おー、皆おかえり。ご苦労さん。」


「「おかえりなさーい。」」



元気よく帰ってきた橘と続くみなに、優しく都澄と幡牛と遁苺が出迎える。



「静音!大丈夫なのか?怪我は?見た感じ大丈夫そうだけど、何もされてない?」


「う、うん……大丈夫。」



ボディチェックをするように、静音の全身を触りまくり要は落ち着かない。



「見たら分かるじゃないっスか。心配症っスね。」


「これだけ萌えないボディタッチは珍しいわね。」



羮芻の言うことは最もだが、轢夲の着眼点はどこかずれている。



「報告きてからずっとあれなんスよー部屋中行ったり来たり。」


「すまんな。今は大目に見てやってくれ。」



現場に居なかった要の方が動揺しているらしい。


篠宮は代わりに謝っておく。

「ヤクシサン」


「課長に報告してきたからな。楽しみにしとけ。」



ビビるあまり片言になる卍擽へ追い打ちをかけるの如く、厄塒はニヤリと不気味に笑みを浮かべる。



「はーい、皆さん!恒例、幡牛さんからでーす!」



「待ってましたっ!」


「少しは自重しろ。」



遁苺の言葉に目を輝かせる橘は、呆れる来栖さえ気にしない。



「これ…蒸しパンっスか?」


「なんか段々凝ってません?」


差し出されたお盆の上にはカラフルな色の蒸しパンが並ぶ。



「作るの大変でしょう?」


「そんなこと無いわよー。混ぜて蒸すだけだから。」



バリエーションに驚く椎名だが、幡牛は作り慣れているのか簡単に言う。



「頂こうかな。」


「係長にはこれを。栄養満点のほうれん草です。」



夜食というには物足りないかもしれないが、胃に負担をかけない食材ばかり。



「このピンク貰いまーす!」


「私はこの黒々としたのにしようかしら。」



橘は苺を、轢夲は黒糖を。



「じゃ俺は小豆を貰おう。」


「僕はこのレーズンを。仁科君にも持って行ってくるよ。」



篠宮と要もそれぞれ手に取る。

「イエロー貰うっス。」


「俺、定番貰います。」



羮芻はバナナ、来栖はさつまいもを。



「私は白色にしよっと。」



「この朱色、美味そう。」


「オレンジも美味そうだぞ。」



遁苺はヨーグルトを、卍擽はニンジンを、厄塒はカボチャを。


仕事をしながら作ったとは思えない程、プロ級の見た目と味に皆舌鼓を打つ。



「……………………。」



皆がワイワイと話している声が遠い。


静音は心ここにあらずといった感じでボーと見ていた。



頭の中でループしている言葉。


さっき玲斗から言われた言葉。



「柊さんも食べなさいな。ほら、きなこ。食べてみて。」



静音の頬に微かに流れる涙に気付かないのか、幡牛は明るく勧めた。



「…ありがとうございます。」



頬張ると口に広がるきなこの優しい味。


ここに居る人達みたいだと思う。



手を伸ばせばそこにある幸せを掴む勇気と、自ら狭めた幅を広げ生きる覚悟。




玲斗の言葉に、もう一度だけ自分を信じよう。







『もう気持ち偽らないでいい。大丈夫、僕が保証するから。』






やるべき事と、やりたい事を決めた。

それから二週間後……


事件というか事故というか…、ここ4ヶ月に起きた一連の事が解決した岨聚の病室にて。



「岨聚、何か食べたいものある?」



「う~ん…ないわ。お水をくれる?」


「はい。」



雅と琅提は、この5日前に目覚めた岨聚の見舞いに来ていた。


精密検査の結果も良好で、岨聚は明後日退院だ。



ただ、事の顛末について岨聚は全て知っているのに何も言わなかった。



仁科と厄塒が来た時は覚えていない、そして今現在も一言も話題にしていない。



まるで、16年前の静音のように。



「岨聚!見舞いに来たよ。」


「……よっ!」



「玲斗!………と、鏡鵺。よく顔を見せれたものね。」



病室に顔を出した玲斗と鏡鵺に、嬉しい顔の後に呆れた顔をした。



あれだけ騒いでいた総帥があっさり被害届を取り下げたのは、目覚めた岨聚が総帥を言い含めたからとか。


そのおかげで鏡鵺は罪にも問われることなく、こうしていられるのだ。



「………静音…」



玲斗と鏡鵺の後ろから入って来た静音に岨聚は驚く。



顔を合わせるのは同窓会以来、岨聚が静音の名を最後に呼んだのはもっと前だ。

「岨聚…、雅、琅提、玲斗、鏡鵺。ごめん……色々と。」



静音は、5人の眼を真っ直ぐ見ながら言った。



「…何よそれ、自分だけが悪いみたいに。………私の方こそごめん。我が儘だってことは分かってたのに、引くに引けなくて、結局全部メチャクチャになって。静音、何も言わないから。エスカレートしてるのにも気付いてたのに、いつの間にかそれが当たり前になってたわ。」



お嬢様の立場に甘んじてやりたい放題してきた。


それでも周りに笑顔が溢れていたのは、岨聚が人を気遣えていたから。



だが、玲斗を純粋に想う気持ちが放棄させ、その結果がこれだ。



「あんなことしたって、思い通りにいくわけ無いわよね。」



チラリと玲斗を見る。



「許されないかもしれない。今更、虫の良い話かもしれない。でも、またあの頃の様になりたい。自分勝手なのは分かってるわ。けど、死にかけたんですもの。生まれ変わった気持ちでというのは、都合が良すぎるかしら。」



涙を浮かべながらも岨聚が強く口にしたのは、戻るという過去ではなく、なるという未来。



静音の言った色々にどれだけの意味が込められているか、痛い程よく分かったからだ。

「岨聚……」



今まで見たこともない……、いや出会った頃よりも優しく泣きそうな表情の岨聚に、静音以外の4人は言葉を失う。



「……都合が良すぎなのはお互い様じゃない?今更も…自分勝手も。」



岨聚だけじゃない…………


過去を後悔し未来を諦めたのは、きっと。



静音は、そうであって欲しいと希望を込めて言ってみた。



「し、静音………岨聚……」


「琅提………!泣か…ない、の!」



静音と岨聚の言葉と、楽しかった頃と同じ懐かしい雰囲気に緊張が解けたのか、琅提は泣き出してしまう。



「雅だって泣いてんじゃん…」


「う、うるさいっ!」



雅、そして指摘した鏡鵺の目にも涙が浮かんでいる。



「終わり良ければすべて良し。……というのは言い過ぎだけど、ここから始めようか。…皆で、さ。」



皆で―――――――――。



あの頃から望んでいたこと。


溢れ出す涙を懸命に拭いながら、玲斗は力強く言う。



「…うん、始めよ。」



静音も力強く応えた。



他の同級生達が岨聚の変化をどう思うかは分からないが、二度と偽りはしない。



この瞬間、地獄は終わったのだから。

「へ~、仲直り出来たんだ。良かったじゃん!」


「何とかね。琅提が大号泣で、泣き止ませるのに大変だったけど。」



蒸しパンを食べながら、静音は橘に病室での事を話していた。



因みにこの蒸しパンを作ったのは、幡牛ではなく静音。


あの時食べたのが美味しく、作り方を聞いて岨聚の退院祝いに持っていったぐらいのお気に入りになっている。



「同級生の方はどうだったの?」


「そっちも何とかなりました。」



「良かったですね。」


「まだぎこちないですけど、みんな気持ちは同じだったみたいで。」



岨聚の退院後、5人で同級生を一人一人訪ね謝罪した。



一度感じた恐怖はなかなか払拭出来ないようだが、同級生達も静音とは仲良くしたかったらしい。


話す同級生達の顔は明るかった。



幡牛と遁苺も、静音の顔色を見てもう大丈夫そうだと一安心した。



「良かったじゃない?脅迫でもストーカーでもなくて。まぁ、あの子、私の趣味じゃないけどね。」


「だから、轢夲さんの趣味は関係ないっスよ。」



轢夲曰く鏡鵺は好みではないらしいが、轢夲の趣味趣向上、むしろ選ばれなくて良かったと羮芻は本気で思う。

「あ、そうだ。卍擽先輩の処分ってどうなったんですか?来栖さん聞いてません?」


「なんで俺に聞く?仁科さんか厄塒さんにでも聞けばいいだろ。」



「え―、だって仁科さんは別の事件捜査中だし、厄塒さんには……わざわざ面倒くさい。」



興味がある割に行動するのは嫌らしい。



「減俸って聞いてるよ。係長が、向こうの課長に口聞いてくれたみたい。厄塒さんは納得してないみたいだけどね。」



卍擽の処分を寛大に済ませる代わりに、鏡鵺の罪は被害届も取り下げられたし穏便に。


椎名が又聞きした感じだと、そういうことらしい。



「係長も課長も甘過ぎる。……まぁ、鏡鵺のことに免じて今回は無かったことにします。」



「なんだその古めかしい言い方は。」


「確かに面白い言い方です。……甘いというのは同意見ですけど。タイミングが悪ければ静音が怪我をしていたかもしれないんだから。」



静音が許したから我慢出来ているものの、要の怒りは収まっていないようだ。


今回は自分よりも要の方…、3年前とは逆だと思いつつ、静音が中学を転校してもいいとアッサリ言った理由が判明してようやく納得出来たなと篠宮は笑うのだった。

「柊、話ってなにかな?」



静音は椎名を呼び出した。


柄にもなく緊張して。



「…………あの、すみませんでした。玲斗のことで怒鳴ってしまって………。」


「え、ああ………。いいよ、気にしてないよ。というか、僕も言い過ぎたからね。」



静音は玲斗を、椎名は静音を、お互いに心配し過ぎてしまったからに他ならない。


言いにくそうに何かと思ったらと、椎名は自分も悪かったから大丈夫だと優しく返す。



「いえ………。屋上で椎名さんが言ったこと、なんていうか、凄い心に刺さったというか…その通りだなって思って。自分を大切に出来てなかったのは、分かってましたから。」



自分の為と言いつつ、己の首を絞めてしまっていたのに、そこから逃げ出したのも自分からだった。



「あと、好きな人には生きていて欲しいっていうとこも。」


「あ、あれは……」



「私も、母にそう思ってましたし、シノさんや要さんにもそう思ってますから。」


「へ?ああ………」



そっちの意味ね。



好き、の意味が自分と違うんだけどな…。と椎名は複雑に思った。


一般的な好きとは、静音に対する椎名の感情のことなのだから。

「玲斗に言われたんです、もう偽らなくていいって。だから、今までしなかったことに全部、勇気出してみました。」


「そっか。仲直りも出来たんだよね。」



「はい。それと同窓会なんですけど、もう一回することになったんです。今度は中学校で。」


「そう!それは良かったね。」



全てに一段落した後、岨聚が言い出したのだ。



静音達3人だけが小学校へ行ったことが寂しかったらしい。


どうせなら中学校でと、許可も岨聚が取りつけた。



「みんなの………椎名さんのおかげです。ずっと心にしまいこんでいたことに決着が着きましたから。これからは、ちゃんと自分を大事にしていきます。」



目を見てハッキリと言った静音の顔は晴れやか。


親友である玲斗ほどではないだろうが、少しは自分も静音の役に立てることが出来たのだろうと椎名はホッとした。



「ついで……と言っては何なんですが、椎名さんに別件で謝りたいことがありまして。」


「え?なに?」



別件………ということは今回のことではないようだが、謝られるようなことは特に無かったはずだと椎名は不思議に思う。


今回の件も謝られるようなことでは無いのだが。

「莉央にぃと深緒ねぇといた時に、20代ぐらいのサラリーマンを誘った時があって。でもそのサラリーマン、私の誘いに乗らずに注意したんです。こんなことしちゃいけないって。でも私逃げちゃって。」


「……えっと…、話が見えないんだけど、そのサラリーマンと僕とが何か関係あるの?」



謝りたいと言いながら、いきなり夜鷹時代の話。


椎名には全く意味が分からない。



「やっぱり椎名さん覚えてないんですね。まぁ、私に告白するぐらいだから覚えてないとは思ってましたけど。」


「え?どういうこと?」



「そのサラリーマン、椎名さんなんですよ。」


「え?え、ええー!?」



衝撃の言葉に椎名はかなり驚くが、静音は椎名の反応が面白かったのかクスクスと笑いっぱなしだ。



13年前に出会ったサラリーマンに、まさか警察で会おうとは。


ただ椎名は覚えておらず告白までしてきたから、静音は二度も驚いた。



「驚き過ぎですよ。まぁ、深緒ねぇに化粧とかして貰ってたんで、私だと気付かなかったのは無理もないですけどね。」



未成年に見えないようにして貰っていたはずだが、椎名は未成年どころか小学生とまで言い当てた。

「で、でも僕が会社員だったのは何十年も前で……」


「覚えてますよ、それくらい。ペテン師夜鷹をなめないで下さい。」



誘った男の顔は覚えている。


罪の意識がそうさせたのか、名前も素性も分からないが、顔だけは今でも覚えている。



断ったにも関わらず覚えていたのは、よほど椎名の印象が強かったらしい。



「椎名さんを好きかどうかは分かりませんけど、椎名さんの言ったことも考え方も私は凄く心に響いたから。だから、好きになれるように努力してみます。今まで拒否してきちゃいましたけど、椎名さんのことちゃんと知りたいので。」



「柊……」



知りたいと思ったのは自分だけじゃなかったと、椎名は嬉しさが込み上げる。



が。



「だけど、織端玲斗は…?好き…だったんでしょ?せっかく仲直りしたのに。」


「なんで玲斗が出てくるんですか?」



「柊、織端玲斗のこと好きなんじゃ……」



不思議な顔の静音に、椎名は思っていたことを口にする。


静音と玲斗が両想いだからこそ、玲斗犯人説に過剰に反応したのだと思った。



過去のことや潜入のことも解決した今、もうプロポーズを断る理由は見当たらない。

「私、今まで人に恋愛感情を持ったことはありませんよ。玲斗にも言ったんですけど、母のこととか、ペテン師夜鷹のこととか、岨聚達のこととか。そんなことばかりに気持ちがいってたので、誰かを好きになるとか付き合うとかは……もちろん、人としての好きはたくさんいますけど。」



嘘はない。



誰かを恋愛対象として見れる心の余裕など、今までの静音にはなかった。



「でもあの時、織端玲斗は柊を抱き締めていたし…、柊はなんとなく嬉しそうだったし…」


「抱き締め……?あれは…、聞いてませんから理由は知りません。嬉しそうだったのは、さっきも言いましたけど玲斗にもう偽らなくていいと言われたことに対してだと思いますけど。…………てゆうか、私、嬉しそうだったんですか。」



抱き締めた理由について断ったし推測ではあるが、最後に一度だけというやつかもしれないと、静音は勝手に思っている。


あれから玲斗から何も言われていないのもあるが。



それに玲斗の言葉に驚きすぎて、自分のした表情など覚えていない。



「そう、なの……?」


「そうです。」



「そうなんだ。」



静音の言葉に、椎名は嬉しそうに頷いていた。