そこに階段があると思って足を下ろした時、実際には平らな道だったなんていう経験はしない方がいい。それが上りならまだマシなんだ。ほんの少し前のめりに転びそうになる程度だからね。下りは痛みが半端じゃない。膝の皿が割れるかと思ったよ。
 いきなり止まるなよな! 後ろの兄弟が綺麗にハモった。
 ごめんごめんと痛みに顔をしかめながら振り返った。ドアの向こうには屋上の景色が見える。しかし、閉じようとしているドアが見慣れない。こんなドアだったか? 熊の毛皮にでも覆われているかのように見えた。取っ手らしき物も見えない。どういうことだ? と辺りに目だけを向けた。
 そこは真っ暗な部屋の中だった。空気の流れがしない。顔を上に上げると、そこにはなにかが二つ光っていた。
 雄太と昭夫の顔が、ハッキリと見えるようになり、その光の正体が分かった。
 熊のような獣の剥製で作られた敷物が貼られていた。その獣の目が、光っていたんだ。暗闇に慣れた目で改めて辺りを見回すと、熊の敷物が貼られているドアが壁に中心にあり、その両隣の壁には虎のような獣の敷物が、左右の壁にはシロクマのような獣の敷物が、背後の壁にはライオンのような獣の敷物が、同じように中心がドアになっている箇所は熊のような獣の敷物だった。
 とは言っても敷物をそのまま壁に貼り付けているわけではなく、まるで壁の一部が本物の獣であるかのように張り付いている。もしかしたら、本物なのかも知れないが、今のところはまだ噛み付かれてもいなければ、その爪で引っ掻かれてもいない。手足や尻尾の具合から、僕は剥製だと感じている。
 どうなってるんだよ一体! 昭夫が叫んだ。
 ここが異世界なのか? だったらちょうどいいじゃんか! 取り敢えずそこのドアから外に出よう。 雄太がそう言った。
 熊のような獣の剥製の張り付いている場所がドアになっていることは、その左手の特徴から察することが出来た。けれど、そのドアを開ける勇気が僕にはなかった。それは昭夫も同様だった。
 こんな獣と握手が出来るなんて、なかなか凝ったドアだよな。雄太はそう言いながら、熊のような獣の左手を握り、右に捻った。そしてそのドアを押し開ける。
 やっと来たな、とエンケンの姿が飛び込んできた。その笑顔がなんだか怖く、まだその部屋の中にいた僕たち三人は、それぞれの顔を見合わせた。