そこに車を停めてちょうだい。お楽しみの場所に到着よ。
 エイミーの言葉に従って、昭夫は車を停めた。なんだか大きな門型の建物がそこにはあり、車を止めるとすぐに防寒着を着た年寄りが近付いてくる。
 この世界は基本的にほんのりと肌寒い。それでもエイミーのようにノースリーブ姿の女性は多く、その上に革ジャンやコートを羽織ってはいるが、短いズボンやスカート姿がよく目立つ。男性に関しても似たようなもので、基本は薄手にジャケット、ズボンは穴が空いていることが多い。
 防寒着姿の年寄りは、僕たちにチップを求めた。手持ちのお金はあったけれど、この世界でも通用するのかと困り顔を見せていたら、横からエイミーがどこの国のだか分からないお札を年寄りに差し出した。すると、代わりにナンバーの入った名刺のような顔写真入りのカードを手渡された。
 どういうこと? そんな思いを込めた表情を浮かべてエイミーに視線を向けた。
 彼はここの駐車係なのよ。お金を払えば車を守ってくれる。それだけよ。あなたたちの国にもいるでしょ? 交通警察? それと同じよ。
 なるほど、と感じた。だから防寒着を着ているんだと納得をする。基本的にこの世界の人たちが薄着な理由は直ぐに理解出来ていた。ハートが熱いんだよ。常に燃えている。ただそこにいるだけで体温が上昇していく。このほんのりとした肌寒さは、火照った身体にはちょうどいい。
 どこの世界でも同じだけれど、冷たい人間は存在する。そんな人間は、その冷え切った身体を温めるために防寒着を着るんだ。彼らのようにね。
 車から降りた僕たちは、荷物置きの空間に無理矢理積み込んでいた楽器を取り出そうとしていた。するとエイミーが、今はそれ、必要ないわよ。なにもロックミュージシャンの楽しみはそれだけじゃないでしょ? そう言った。
 僕たちはその言葉に従って荷物ごとの車を防寒着の彼に預けて歩き出した。その建物に入るのかと思っていたら、違っていた。
 ここは単なる駐車場よ。目的地はその隣。
 そう言ってエイミーが顎で指し示した場所は、まるで交番のような地味な色の箱型の小さな建物だった。入り口はあるけれど、窓がない。なんだかとても無機質だと感じる。その点も交番とよく似ている。まさかここに