鈍い音がした後、僕の額から大量の血が床に滴り落ちた。
その血は床だけでなく、僕の目にも流れ込み、頬を伝い、やがて口の中にも入ってきた。

普通の子供ならこんなことになればもっと泣きわめくであろう。
しかし、口の中に血が入った瞬間、僕はピタリと泣き止んだ。
常人であれば『鉄の味』だの『不味い』だのと感じるであろうその味は、この時の僕にとっては至高の味であった。

お母さんが久しぶりにおいしいごはん食べさせてくれた…
おいしい…おいしいよお母さん…
ありがとう…

側から見たら精神異常者にしか見えないだろうが、当時ろくな食事も与えられずに心身共に衰弱していた僕には、母につけられた傷から滴る血の味は本当に美味しかったのだ。