そういうと彼女は僕の前に座り、ウサギを僕に近付けた。
今日は手が汚れていないとはいえ僕なんかが触れるのは少し申し訳なかったが、京がキラキラした目でこっちを見てくるので、僕はウサギにそーっと触れた。

ウサギのふわふわとした毛並みと温かい体温が僕の右手に安らぎを与えた。
しかし、それと同時に、僕が母と暮らしていた幼い頃の記憶を鮮明に蘇らせた。

3歳くらいの頃だろうか?
僕は母と共に動物園に来ていて、一緒にウサギを撫でていた。その時のウサギも、この『シロナ』と同じ白いロップイヤーだった。
白いロップイヤーが好きだという点は、僕と母の唯一の共通点で、当時の僕はそれが本当に嬉しかった。

『お母さん、僕とウサギどっちがかわいい?』

『うーん…ウサギかなっ?…あー、ウソウソ!ジョーダンだって!芽来に決まってるでしょ!』

動物園からの帰り道、母と交わした何気ない会話がふと脳裏に蘇った。