あの日以降、僕は迂闊に体育館裏で手首を切る事が出来なくなった。
京がここへ来たように、もしかしたら他の生徒も現れるかもしれない。
こんな地味で暗い場所には誰も来ないだろうと思っていたが計算外だった。

昼休み。今日も僕は手首を切り血を啜りたい衝動を必死に抑え、気を紛らわす為、体育館裏で一人本を読んでいた。

本の内容は、幼少期に親を殺された少年が復讐の為仇である婚約者の親を殺すという残酷な話だ。
主人公の少年が殺人を犯すシーンで、殺しの様子が緻密に表現されていて非常にグロテスクだが、僕はこのシーンが好きだと思った。
復讐のターゲットが無様に、憐れに、残酷にジワジワと殺されるシーンは何度も何度も読み返してしまう。

僕がすっかり小説の世界にのめり込んでいると、

「木更津君!」