「…木更津君？」

突如何者かに呼ばれ、僕はビクッと震えた。
恐る恐る振り返ると、そこに居たのはこんな薄暗い場所には似つかわしくないクラスの女子だった。

「こんなところで何してるの？」

不思議そうにこちらを見つめる彼女…名前は確か…

「か、京さんこそどうしたの？」

質問に質問で返す事になって悪いとは思うが、「リスカしてました」などと正直に答えるわけにもいかない。
僕には人に自分の傷を見せびらかすような趣味は無い。
僕は傷だらけの左手をズボンのポケットに隠しながら、話を逸らした。

彼女…京 璃凛（カナドメ リリ）は、僕が尋ねると、困ったような顔をして言った。

「木更津君…この辺りにウサギ来なかった？小屋から逃げちゃったみたいで…」

「ウサギ？…さあ、見てないけど…」

「そっか…ありがとう。じゃあ、私急ぐから…」

そう言ってこの場を立ち去ろうとした彼女の目は涙で潤んでいて、声も少し震えていた。

「あの…京さん…」

僕は無意識のうちに彼女を呼び止めていた。
そして、

「俺も探すの手伝うよ。」

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