『小百合の口から金子さんに、私の気持ちを知られたくない。』

たったそれだけ。

それだけの為に、私は小百合に嘘をつき通そうとしているのだ。


「ねえ、小百合。こんな話、止めようよ。」

「どうして?」

「誰が金子さんを好きだろうと、金子さんは小百合と結婚するの。小百合を選んだの。自信を持って。」

小百合は涙を拭くと、お手洗いから出て行った。


ああ、私が金子さんの結婚相手だったら。

どんな人が、金子さんを好きだと知っても、愛されている自信があるのに。

腹が立つ。

どうして、小百合なの?

どうして金子さんに愛されているのに、私が気になるの?

私は、化粧ポーチから一番軽い物を選んで、壁に向かって投げ捨てた。