私は扉に手を掛けた。眩い光が私の網膜を刺激した。ここまで光が強いということは何かがあるに違いない。
 光は徐々に薄れていった。まず最初にドラムが目に入った。次にベッド。次に、椅子に座る男がいた。
 直感的に私はこの男を知っていると思った。
 男も、
「僕は君を知っていると思う。ホクロに見覚えがあるし、ブラウンのショートカットにも見覚えがある」
 敵意のない笑みでいった。
 男は絵画から飛びでたのではないかと思うぐらい端正な顔立ちだった。でも、どこか陰のある雰囲気を醸し出していた。
「私もあなたをよく知っている。私はあなたに罪の意識を抱いていると思うの」
「この空間ではそれは関係ないと思うんだ。僕はここしか居場所がない。でも、君はここに来ることもできるし、ここではない場所にもいける。多分、その差こそが、僕と君の接点だった、んだと思う。ごめん。うまく説明できなくて」
「いいのよ。なぜだろう。私はあなたを見ると涙が止まらない」
 私の目から涙が溢れていた。床に大粒の涙の跡が滲んだ。
 男は困った顔をしていた。「泣くことはないよ。何事も結果には理由があるものだよ。不思議ではない。でも、僕はこの空間にいて思うことは、何度も言う。僕はここにしか居場所がない」
「でも、私はあなたと居たいわ」
「一つ思ったというか辿り着いた事は、嫌な記憶とかって夢に表れたり、夢で書き換えたりすることがたまにあると思うんだ。僕は、そんなようなことに携わっていたんだ。非常に嫌で辛いことが起こった。そんなことがあるとは思わなかった。最後の意識の中で、僕はここに逃げ込んだ。多分、ここなら君に会えると思ったのかもしれない。何度でも、何度でも」
 男は椅子から立ち上がり、柔らかい笑みをたたえながら吐息がかかるぐらいの距離に近づいた。
「あなたを知っている。でも、名前を思い出せない。誰?」
 私は指で涙を拭った。でも、涙は止まらない。男は頬をつたう私の涙に唇をつけた。
「名前は重要じゃないよ。一緒にいたい、と思えることこそが重要。これを伝えたかったんだろうな。君は?」
 私は男を見つめた。
「私もよ」
 私の言葉が合図だった。互いの唇に触れた。もう一度、強く。もう一度、より強く。もう一度、強く触れた唇は、互いの唇を反動で離し、ゆっくりと互いの目を見つめ合うには十分だった。
「でも、やっぱり気になる。あなたは誰?」
 私の言葉に男はゆっくりと微笑んだ。