―――間違ったことは何ひとつ言ってないはずだけど、人に伝えるのは難しい。
 わかってくれるって信じてるけど、信じてるよって気持ちを押し付けるのも嫌だ。

 唇を噛みしめていると、龍の手が莉依子の頭にそっと置かれた。
 最初は優しかったそれがだんだん強くなり、ぐしゃぐしゃと髪が掻きまわされる。

「なっ、なに、龍ちゃ」
「ちゃんはやめろって言っただろーが」

 龍は言うが早いが、思いきり強く莉依子の頭を掴んだ。
 下を向いたままの顔を、自分へと向けさせる。
 莉依子はと言えば、目元にあふれてきている熱いものを必死に飲み込もうとしている最中で、龍は間近にそれを見る羽目になった。

 龍は一瞬だけ目を見開き、そして細める。
 しばらく沈黙して莉依子の顔を見続けてから、ハッと鼻で笑った。

「いいのか。かなりぶっさいくなツラになってる」
「ひど、……間違ってはないけど」

 莉依子が昔から――正しく表現すれば、龍が思春期の頃から見慣れた、唇の端を歪めたような笑みを浮かべた龍は、次の瞬間にはすぐ真顔に戻る。
 手を伸ばし、莉依子の頬に少し乱暴気味に触れた。親指が莉依子の目元を拭う。