「………色々言ってごめんね。優しいままで嬉しかったから、その優しいところを、少しだけでもいいから、おうちのみんなにも見せてあげてほしいなって、そう思ったんだ」

 莉依子だけが理解したところで、仕方ない。
 いくら伝えようと思ったところで限界があるのだ。何よりもう、限界が近い。

「………優しくなんて、ねぇけどな……」
「優しいよ」
 
 即座に返答した莉依子に、龍は視線を投げる。
 そしてもう1度深くため息を吐くと体勢を戻し、机の上に広げたテキストとノートを乱暴気味に閉じた。

 莉依子は慌てた。
 説教まがいのこと――もう説教と言っていいだろう。結局自分が説教をしたことで龍の勉強を邪魔をしてしまったのかと今更ながら慌てて、抱えた膝を解いた。
 そして、筆記用具までも片付け始めた龍の腕を掴む。

「お、怒った?」
「……は? なんでだよ」

 答える龍の顔はあくまで淡々としていて、いつもと変わらない。
 変わらないからこそ、莉依子には堪えた。

「だってお勉強の邪魔しちゃったし龍ちゃんやめちゃったし、あの……うるさいこと言ってごめんなさい」

 間違ったことは言っていないと信じている。
 だけど、龍の纏う空気が変わることに対して、莉依子はとても敏感だ。
 しょげて肩と頭を下げてしまった莉依子をじっと見ていた龍は、先程のため息を繰り返す。
 莉依子は耳で捉えたそれに即座に反応し、ますます顔をあげられなくなってしまった。