「ん? なんだよ」
「そのタオル。気持ちいい? 龍」
「ああ。助かった。ありがとな」
「すごく助かった?」
「え? だから助かったって言ってる」
「……お母さんがずっとずっとやってきたことだよ、これ」
「は? 知ってるけど……」

 龍は答えてから、不味いものを口に含んだような顔になった。莉依子が言った事の意味に気が付いたらしい。

「……お前さあ、やっぱ母さんに言われて来たんだろ」

 莉依子が口を開く前に、龍が長い息と一緒に吐き出す。
 バサリと大げさにテキストを閉じたのは、不機嫌の証だ。
 先ほどまで穏やかだった空気が一変したことを全身で感じとりながら、莉依子はそれでも龍から視線を逸らさないで答える。

「違うよ」
「……いちいち母さんの事匂わせすぎなんだよ」
「匂わせて? そんなことしてない」
「母さんを思い出させるような事ばっかしてるってことだよ。なんなんだよ」
「なんなんだよって……」

 龍が変わらない優しさを持っている事を、この3日間で莉依子は知ることが出来た。
 それならもう少しわかりやすく、それを龍の母親たちにも向けて欲しい。ただそれだけだ。難しいことを望んでいるつもりもないし、龍を怒らせたいわけでもない。
 ぐしゃぐしゃと自分の髪を掻きまぜた龍は、ソファへ背から倒れた。