凍る前には――だけどよく冷えたら龍に持っていこう。
パタンと小さめの冷凍庫を閉めながら、莉依子はこみあげる嬉しさを我慢できずにニヤニヤとしてしまった。
龍が実家に居た頃、よく彼の母親がやっていたことだ。
あの頃も夏の間の勉強はとにかく辛そうで、莉依子は今のようにとにかく邪魔をしないよう、気を付けてそれを見つめていた。
開けかけた窓をさらに開け放っておくのは、莉依子の役目だった。
気付いてくれることは稀だったけれど、時々『ありがとな』と頭を撫でられるのが好きだった。
そして龍の母親は、お盆に乗せた麦茶がたくさんのグラスと共に、冷えきったタオルを渡していた。
気持ちよさそうにタオルを頬に当てる龍を、莉依子はいくつも重ねた夏の想い出のひとつとしてしっかりと覚えている。
莉依子は冷凍庫の前で膝を抱えてしゃがみこみ、ひたすら時間が経つのを待った。
時計をチラチラと見遣り、1番はやく回る針が3周ほど経ったところで冷凍庫からタオルを取り出す。
程よく冷えたそれが熱くなった手にしみた。とても気持ちがいい。
またもや思わずにんまりしてしまった口元を抑えきれないまま、慣れない手つきで冷蔵庫から麦茶の入ったボトルを出し、グラスへと注いだ。
それらを全てお盆に乗せると、零さないよう落とさないようゆっくりとリビングへ歩いていく。