その時、龍の背が微かに揺れた。
 
 同時にふう、と小さなため息が聞こえ、左手がページをめくるのと同時に右手の甲で汗を拭いている。
 首周りには、細長いタオルをTシャツに挟みこむように一周させてあって、汗を吸い込むようにしていた。それでも限界はある。

 エアコンを付ければいいのにと言ったところで、「少しでも節約」と返されてしまった。
 お金が大事なのもわかるけれど、健康も大事にしてほしいと莉依子は思う。でも、生活できなくなるかもしれないことに責任は持てない。

 ――どうしたらいいかな……
 あ、そういえばあの家に居た頃もこうやって汗だくで勉強する龍に、お母さんが……

 あることを思い出した莉依子は、龍の邪魔をしないようにそっとソファを抜け出すと、洗面所へと向かった。
 特に配慮をしなくても、これまでの数時間で何度もトイレに行ったりお茶を飲んだりと落ち着きのなかった莉依子を全く意に介さなかった龍は、大丈夫かもしれないけれど。

 ドアをあけて狭い廊下を挟み、またすぐにあるドアの向こうが洗面室と風呂場だ。

 この3日間で覚えた、タオルの配置。
 
 1番小さなタオル類が収納されている引き出しを開けると、1枚出したそれを水に濡らして両手で絞る。これがなかなか難しい。
 水を切ったタオルを綺麗に四角に畳み、洗面室を出てリビングを通りキッチンへ向かうと冷凍庫に閉まった。