母親が手の指の間に挟み、見せつけるようピラピラと揺らされていた『それ』を、『俺』はひったくるように奪った。そして、すぐさま踵を返してまた走り出した。
 小さな『俺』が早く届けたいと、はやる気持ちを抑えられないのが、今の俺にもわかった。

 だってこの感覚、知ってる。

(……夢じゃねぇな)

 言うならば過去視、みたいなやつか?
 昔の事はあまり覚えていない。
 写真嫌いなのは昔から変わっていないし、思い出話をするタイプでもない。多分、男なんてそんなもんだろう。彼女が出来た時に小さい時の写真を見せてと言われないかぎり、引っ張り出してくるもんでもない。

(でもこれ、覚えてる気がする)

 幼稚園くらいの頃、確かに俺は〝それ〟を誰かに見せるために走った。
 長細い色紙。あれはきっと短冊だ。幼稚園でもらってきた、短冊。
 それだけじゃない。俺は何かにつけて、俺の大事な――――