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龍は、机上に教材やらを広げ、何やら一生懸命ノートに書き込んでいる。横線しかない真っ白な紙が、みるみるうちに龍の文字で埋まっていった。
何をそんなに書くことがあるのか莉依子にはわからないけれど、質問を重ねることはつまり龍の勉強の邪魔になってしまうから、今日は必死に口を噤んでいた。
窓は全開になり、蝉の音と車の音が勝負をしている。
扇風機も回しているもののどちらも熱風に近く、真剣な表情で机に向かう龍の額や首筋には汗が流れていた。
そんな龍の姿を後ろから見ているのも、莉依子にとっては幸せな時間である。机の後ろ側に位置するソファの上で、小さく膝を抱えるようにしたまま何をするでもなくただ龍を見つめていた。
時刻は既に、17時を回っている。
昼食を終えた後、「ちょっとやることあるから」と早々にこの図になった。既に4時間は経過しているが、龍は手洗いや何かを飲む以外は手を休めていない。
こういうところ、全く変わらないなぁ……。
両膝に顎を乗せながら、莉依子は心の内で笑った。
外では飄々としていて、努力ひとつしている素振りを見せない龍。
涼しい顔をして、平均以上の事は出来てしまう龍。
しかし、本当はとてつもない努力家なのだ。
鉄棒でも野球でもサッカーでも、リコーダーでもテストでも受験でも。
全ては負けず嫌いな性格から来ているのだと、龍の母親も苦笑しながら言っていた。