龍のお母さんも大好きなんだよなあ。
 目元が龍とそっくりで、口は悪いけどとっても優しくて、うん、どこをとっても龍にそっくりで。お父さんは莉依子にはとにかく優しくて甘くて、ひたすらに優しい人なのに、龍にはぶっきらぼうで。
 あのふたりだから、龍が龍なんだなあ。

 そんなことを思いだしていると「何にやついてんだよ、気味悪い」と言われた。

「女の子に向かって失礼すぎ」
「誰がオンナノコだよ」
「目の前にいるでしょ?」
「わっかんねーな」

 可愛くない。
 龍がとにかく可愛くない返しをしてくることに莉依子は内心腹立たしさを覚えながら、昨日の鶴来への態度を思い出す。
 心を許している証拠だと思えば可愛い……かもしれない。

「もういい。それで? 何でだっけ?」
「……お前1回起きたんだよ、多分9時くらいだったか。時計見てないからわかんねーけど多分そんくらい。でも俺がまだ寝てたから寝るねーとか何とか言って、そんで今に至ると」
「……何やってんの? 私」
「いや知らねーよ」
「……なんてことを……」

 ぽかんとしながら、箸を口に運ぶ作業だけは続ける。

 全く記憶にない。
 只でさえ時間がないというのに、なんて勿体ないことを。

 最後に呟いた莉依子の言葉は聞こえていなかったらしい。
 龍は再び箸を持ち直すと、目をふせた。長いまつ毛の影が頬に落ちる。