反対側には、老人会や少年団が使用する市営グラウンド。

(この道……)

 間違いない。
 この『子供の俺』は俺の実家へと向かっている。

『龍! 落としてる!』

 何度声をかけられても振り向かなかった『俺』がその言葉にぴたりと止まり、振り返った。

 暑い気温の時によく見られる、いわゆる陽炎。
 コンクリートの地面がジリジリと揺らいでいて、その向こう側には、記憶の彼方にある若い頃の母親が微かに見える。
 呆れたように笑う口元がわかった。手に何やら持ち、ヒラヒラと左右に振っている。『俺』は叫んだ。

『あーーーーー!』

 そしてまた駆けだす。今度は母親へ向かって。
 違う、母親が手にしている『それ』に向かって。

(……何だ?紙?)

『かえして!』
『いや返してっておかしいでしょ、お母さんアンタが落としたやつ拾ってあげただけなんだけど』
『はやく! はやく!』
『はいはい。出来れば拾ったお礼を言ってほしかったなー」
『はい! ありがと!』

(すげぇ適当だな俺)

 不思議なもので、今の自分よりも偉そうな『俺』に苦笑しながら客観的に続きを見ている。