手を組み合ってドア付近で押し問答をしているふたりは、どちらも譲る気配はない。
 しかし、笑顔を浮かべて莉依子に挨拶が出来るほどには、鶴来の方が優勢なのかもしれない。

「あの……ふたりとも。やめたほうがいいと思う、よ?」

 保健室の出入り口で、男がふたり。万が一にも保健室の利用患者が来たら、はっきり言ってただの邪魔だ。
 遠まわしに言ったつもりがはっきりと伝わったらしく、ふたりの動きが止まる。
 片方がニヤリと微笑むと、もう片方は心底嫌そうに睨み返した。

「それもそうだな、うん。大人げないぞ? 久住クン」
「意味わからないキャラ設定やめろよ」

 龍は諦めたように髪をかきながら、莉依子の方へと戻ってきた。当然、鶴来も。
 あの龍がこれだけ素直に仏頂面のまま毒舌を吐ける相手なのだから、莉依子が鶴来を警戒する必要なんて何ひとつとして、ない。
 それでもつい身を固くして警戒してしまうのは癖だから仕方がなく、うまく誤魔化す能力も今の莉依子には備わっていなかった。

 龍にツルと呼ばれ鶴来と名乗った青年を、莉依子は観察する。
 丁寧に整えられた眉毛の下には、少し垂れがちな目。
 黒目がちで、どこか幼い印象を受けた。そしてすっと通った鼻筋。黙っていても口角が上がっている。
 
 きちんとしていれば第1印象ではまず好感を持たれそうな、愛想の良いタイプだ。
 あまり感情を顔に出そうとしない龍を見慣れている莉依子には新鮮に映る。