「……龍ちゃん」
「なんだよ」
「ありがと」
「次はねえからな。大学来たいっつっても連れてこねえから」

 唇を尖らせている龍に、莉依子は微笑んで答えた。

「うん、わかってる。大丈夫だよ龍ちゃん」
「……だから龍ちゃんはやめろ」

 顔を窓へと逸らしたまま、小さく吐き捨てるように言った龍の横顔を見つめた。
 丸みのあった頬はしゅっと締まってしまい、あの頃とは全然違う。でも、鼻の高さや目線の動かし方、眉の癖。パーツごとに昔の面影が色濃く残っている。

 莉依子にとって、龍はとても綺麗だと思う。
 特別美形というわけではないけれど、丁寧な顔立ちをしていると思う。勿論欲目はあるとして、それでも、太陽の光を浴びて眩しいのか眉間に皺を寄せているその横顔を、とても綺麗だと思った。

 大丈夫だよ、龍。
 
 口には出さずに話しかける。

 また龍の通う大学を見に来たいだなんて、そんなお願いはもう絶対にしないから、大丈夫。

 莉依子は伝わらなくていいと思いながらも、伝わってくれたら嬉しいとも願った。