「お前、倒れたの覚えてない?」
「……たおれた……」

 莉依子は額に手をあてて、目を瞑った。
 乗り換えた電車から降りてさぁ大学へ、というところで、頭が痛いのと気持ちが悪いのとでグラグラして、視界がぷっつりと暗くなったのを覚えている。
 ぱちりと目を開けて、龍を見た。

「電車おりたとき……?」
「ん。覚えてんならいい。で、ここは大学の保健室」
「……だいがく、の、ほけんしつ……」
「幼稚園児かお前は。今思いっきりひらがな発音だったぞ?ったくもう必要以上の世話かけんじゃねーよ」

 室内を巡っていた視線を、龍へと戻す。
 先ほど見た窓からの風が、龍の頬をさらさらと撫でているのがよくわかった。

「大体お前は手がかかりすぎんだよ。いくら田舎もんだからって人混みくらいで倒れんなっつーの。最寄りだったからおぶってこれたようなもんだけど俺はもう絶対こりごりだからな女おぶって来るなんて目立ちすぎるし」

 じっと龍を見つめている莉依子をよそに、当の本人はまくしたて続けている。