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 決意した瞬間、俺は走っていた。
 どうしてそんなに懸命になっているのか自分でもわからないまま、右手に何かを持って一直線に駆けている。なのになかなか速くならない。
 思うようにならない身体に苛ついて足元を見てみる。そして気が付いた。

 歩幅が狭い。すごく狭い。

 そういえば、目線もいつもより低い。
 止まらない脚に腕に視線を向けると、どう考えても幼いそれだった。

 自分の意志では止まらない脚。幼い身体。
 何かが変だと冷静に考えると、思い当たることがあった。

(夢か?)

 身体が縮んだ夢でも見ているのかもしれないと客観的に考える自分もいて、尚更『これは夢だ』と納得しながらも『俺』は何かを目指して走り続ける。
 後ろから『転ぶわよ!』と制する声もした。今より若い母親の声だ。でも『俺』は振り返ることなくまっすぐ前を向いて気にする素振りはない。

(おいおいどんだけ頑張んだよ俺)
(汗だくじゃねーか)

 自分でツッコミたいくらい、『俺』の息はきれぎれで、汗も滝のように流れてバタバタと落ちていた。

 よくよく見れば、周りの景色に見覚えがあった。
 右側に続く住宅街。1軒だけ蔦がはっている家は俺が覚えている限り、ずっと空家だ。お化け屋敷と昔近所の連中から怖れられていた。