『りゅ……龍ちゃんは大丈夫? 怖くないの?』

 龍は、高いところが苦手なのだ。 
 今も莉依子の頭を撫でていた小さな手の動きが止まり、カタカタと微かに震えている。反対の手は、ズボンの裾をぎゅうと掴んで力を入れているのがよくわかった。

『だいじょうぶだもん。りゅう、おとこのこだから』

 言ってるそばから涙目になっている、幼い龍。
 この姿の龍が、莉依子にとっての最初の記憶かもしれない。

 お友達と喧嘩したり、かけっこで1位になれなかったり。負けず嫌いの龍は、「おとこのこだもん」と自分に言い聞かせるように宙を睨んで涙をこらえていた。
 
 20歳になった龍を思い出す。
 邪魔をするなと莉依子に釘を刺して勉強をする龍と今ここにいる龍は、やはり同じものを持っている。

(この顔はすごく懐かしいけど、こう見るとあんまり変わってないんだね、龍ちゃん)

 莉依子は笑って龍に話しかけた。

『ねえ龍ちゃん、お空見ようよ』

 怖くなくなるから、なんてことを言ったら絶対に言うことを聞かないのは莉依子にはわかっていた。だから意識を変えさせる。
 
 雲の上で伏せるような体勢でいるから、真下が見えてしまうんだ。