『……龍ちゃん』

 思わず顔が緩んで、笑みがこぼれてしまう。
 今目の前に居るのは、まだ幼稚園に通っていた頃の龍だ。

 他のお友達よりも目がちょっと大きくて、まつ毛もちょっと長くて。「かっこいいやきゅうせんしゅになりたい」が口癖だった彼は、自分の外見が「おとこらしくないからいやだ」とよく泣いていた。
 実はくせっ毛である髪が、耳の上のところでくりんとカールしてしまう事を、この頃から気にしていたっけ。

 そんな幼い姿の龍が、隣にいる。

『りーこ、きいてる? そこはあぶないの。きをつけてっていってるでしょ』

 可愛らしい外見以上に男らしい表情を浮かべた龍は、今まさに雲から下りようとしていた莉依子の腕を掴むと自分の隣に座らせた。
 
 そして、あの頃みたいに小さな手で頭を撫でてくれる。
 莉依子は嬉しくて仕方なくなると同時に、懐かしさでまた目のあたりが熱くなってきた。
 
 何かが落ちそうになるのを誤魔化すように手で目を擦って、莉依子は龍へと笑いかける。