そして付け加えるとするならば、今の状況だ。
 莉依子から思考力を失わせつつあった。

 人混みは嫌いだし、初めての電車の乗り換えにかなり疲れてきているし、夏休みだというのにこの混みようは何……?
 夏休みは、休むためにあるものじゃないの?
 どうして、龍ちゃんくらいの年齢の子がこんなにいるの?

 睨むような眼つきで歩いていると、莉依子は自覚していた。
 ただでさえ既に脚が疲れてきているのに、人と人の間を縫って歩くことで数倍気力も体力も使う。すれ違う人の顔をいちいち見てしまい、疲れの上にだんだん人に酔ってきたような気がする。
 かぶりをふり、自分の手を引いている龍の手だけを見つめた。

 昔はもっと小さかった、龍ちゃんの手。いつも撫でてくれていた手と全然違う。いつの間にこんなに大きくなってたんだろう。
 
 ……だめだ、本格的に気持ちが悪い。
 これが人酔い、ってやつ?

 莉依子の肩に人がぶつかる。
 ごめんなさい、すみません、とうわ言のように繰り返しながら頭を下げる。そんなことを何度繰り返しただろう。

 意識が、ぷつりと途切れた。