何度も何度も心の中で繰り返していると、莉依子はそれだけでおなかがいっぱいになるような気持ちになってきた。
 
 とても不思議だ。
 龍を想うだけで、こんなにも心があたたかくなれる。

「おい」

 くん、と腕を引っ張られて我に返る。前を向いていたはずの龍が莉依子に振り向いていて、目が合うともう1度軽く手を握り直した。

「ちゃんとしてろ」

 そう付け足すとまた、人波を掻き分けるように歩き出す。
 龍の背中を見つめながら、莉依子の眉間に皺が寄ってきた。

 ……何? いまの。
 すごくかっこよかったんだけど。

 相手が莉依子だから、変な誤解をされることがないと思っているのかもしれないけれど、こんなことをナチュラルにやってみせるとは。
 
 すっかり大人になってしまったんだな、なんて思いながら唇を尖らせてみる。
 そんな莉依子の気持ちに気付くはずもない龍は、呆れたように眉をひそめると、「ブスッとすんな。ちゃんと前見て歩け。転ぶぞ」と言って再び前へ向いた。

 これではまるで、本当に親子か兄妹だ。
 でもまあ、仕方がない。もともと龍と莉依子はそれと似たような関係性で、一緒に育ってきている。