「迷子になっても困るからな」

 言葉と同時に力強く握られた手をそのままに、龍は歩き出した。手を繋いでいるというよりは、まるで『父に連れられている娘』もしくは『兄に連れられている妹』の図だ。

 まず、並んで歩いていない。ひっぱられている。しかも引きずられるように。
 歩幅を合わせてくれる優しさなんてものは、ヒトカケラもない。多分、彼女にはもっと優しくする男の子なのに。

 別に特別な女の子みたいに扱われたいわけではないし、相手が『幼馴染』ということを踏まえたら仕方ないとは思うけれど、相変わらずと言うか。
 そういえば昨日龍に会えた時も、名前を叫んで騒ぐ莉依子の腕を強引に掴んで甘さも何もない状態で引きずられていたっけ。

 ……それでも、すごく嬉しい。

 人波を、慣れたように縫って歩く龍の背中を見つめながら、莉依子は微笑んだ。

 夢だったんだよね、こうやって手を繋いで歩くの。
 誰にも言ったことがないけれど。
 言ったら笑われるから、言えるはずがなかったけれど。

 龍が大好きだ。大好きで大事で仕方がない。
 だからこそ、ここに来た。