「……お母さん」

 膝を抱えて呼んでみる。
 撫でてくれる手は、龍と少し似ているかもしれない。豪快に笑う顔はまったく似ていないけれど、胸の真ん中のあったかさは同じものだ。

「いつまで座りこんでんだお前」
「わあ?」

 いつの間に浴室から出てきていたのか、また目の前に龍が立っていた。首にタオルを巻いてはいるもののきっちりと乾かされた髪はまっすぐ下りていて、フワフワのフの字も見当たらない。

 あのフワフワが可愛いのに、どうしていつもまっすぐにしちゃうのと莉依子は文句のひとつも言いたくなったけれど、この事に関しては龍は本気で嫌がるからやめておこう。
 何も答えない莉依子を見遣りながら、龍は何やら鞄の中を見ている。

「なにしてるの?」
「課題持ったか確認。今日提出しないとだから」
「昨日やってたやつ? 出しに行くの?」
「あー」

 そこで何か思い当たったように、龍は莉依子へと向いた。

「なーに?」
「お前今日どうすんの」
「え?」
「これから大学行くんだけど」
「……ついてってもいい?」
「邪魔しないなら考えてやってもいいけど。大学見といて損はないぞ」
「絶対しない!」
「じゃ、とりあえず朝飯にすっか」
「うん! ありがと!」

 満面の笑みで立ち上がった莉依子は、ぴょこんと龍にお礼のお辞儀をしてから洗面所へと向かった。

 今の龍の生活の中心である大学へ行けるというのなら、さらに龍の事を知ることができる機会だろう。
 鏡の中の自分と対面し、髪のあまりの酷さに呆気にとられながらも、莉依子は満足げに笑った。