見上げる龍の背中がとても頼もしく感じて、気付けば莉依子は口に出していた。

「龍ちゃん、背ものびた?」
「はあ? なんだよ背もって」
「色々成長したなーって思ってたら背もおっきくなったのかなって」
「お前は母親か」
「で、のびたの?」

 今度は何を言い出すんだと言いたげな顔で、龍は思いきり振り向く。
 左手を腰に当て、右手で髪をボリボリ掻きながら迷うように答えた。

「わかんね。身長とか測んねーし」
「おっきくなった気がする」
「お前が床に座ってるからそう見えるだけじゃねーの」
「男らしくてかっこいいよ」
「あのなぁ褒めても何も出な」
「でも寝起きの髪は変わってなくてかわいい。耳の上の」
「だーーーーー!!」

 途端に龍は、もの凄い速さでリビングを出ていってしまった。ちょっとした廊下に通じるドアがバァンと跳ね返る。すぐに浴室のドアが開く音、続いてシャワーの水音が聞こえてきた。
 一体どれだけ全力だったのかと莉依子は笑いながら、くせ毛を恥ずかしがっていた龍を思い出す。

「……ほんと、かわってないんだなあ」

 帰って来なくなったのは、もしかしたら新しい世界へ飛び出した龍が実家を嫌になったからじゃないのかと、心配になっていた時があった。

『もう親の声なんて聞きたかないだろうけど……せめて、りいこちゃんにくらい声を聴かせてくれたっていいのにねえ』

 莉依子の頭を撫でながら、そんな風に笑う龍のお母さんは笑っていたのにいつだって寂しそうで、莉依子は何もできない自分の無力さを呪った。