跳ねさせた指先は、スレスレのところで莉依子の額には当たらなかったものの、即座に身体を固くさせてしまったのは攻撃をされると思い込んだ本能のようなものだ。
 しゃがみこんだまま莉依子と目線を合わせてくれる龍の本質はきっと、あの頃と変わっていない。
 実感できたことが嬉しい。
 
 ……それでも一応、反論はする。

「ちょーしになんか乗ってなんかないもん」
「ほお?」

 目だけを細める龍の笑い方。
 これは、『怒らないから正直に言ってごらん』という表情。悪戯を仕掛ける度に見たことがあった。
 ひとつひとつに、莉依子が知る龍が居る。
 同じ人だから当たり前なのかもしれない。だけど、変わっていない事が嬉しくて嬉しくて、なんだか目のあたりが熱くなってきた。でも格好悪いからとがんばって我慢した。

「……楽しかっただけです」
「正直でよろしい」

 頭に、また手のひらのぬくもりが灯る。
 ずっとこうされていたい。

 その願いは届くはずもなく、あっさりと離されてしまった。
 名残惜しい莉依子の目線に気付くことなく、「うし」と小さく呟いた龍は、伸びをしながら立ち上がる。