「はは、ひでー頭。ぼっさぼさ」

 龍がそう言っておどけて莉依子の頭から手を離した頃には、先ほどまでの赤くなった顔はなくなっている。
 莉依子はつまんないの、と思いながらも龍の表情の変化を見ていると、すぐにいつもの余裕そうな表情に戻り、右の口角を意地悪そうにあげた。

 ああ、やっぱりよく知ってる龍ちゃんに戻っちゃった。
 せっかく見たことない顔が見れたと思ったのに、つまらない。

 頬を膨らませる莉依子を、龍は呆れたように見つめる。

 龍は、心の中でどれだけ悩んだり戦っていたとしてもそれを表に出すことは少なく、自分のペースを保つのが昔からうまい男の子ではあった。
 だけど、ここまで早く立て直されるのは……若干20歳にして先が怖い。
 もう少し、慌てふためいてもいいと思う。
 莉依子は、ぐしゃぐしゃにされた髪を自分で触りながら文句を言った。

「もう、なにするの」
「自業自得だろ」
「じごう?」
「お前ぜってー国語の成績最悪だろ。自業自得。自分のせいってことだ。調子乗りすぎ」

 龍はそう言いながら、昔よくやって見せてくれた影絵のきつねのような手をすると、中指をピンと跳ねさせる。