「だから、においじゃ足りなかったの」
「……は」
「だってすぐそこに龍がいるのに、龍のにおいだけじゃ足りないに決まってる。せっかく本人がいるんだから一緒に寝ないと」
「は? ははは、お前何言って」

 龍の首筋が一気に赤く染まる。

 ああ、いいなあこの表情。
 昨日ここへ来てすぐ龍のおふとんに上がった時も、確か今みたいに赤くなってた気がする。
 そんな風に照れたりするんだ。
 あの頃自分に向けられるいくつもの表情の中に、これはなかった。

 初めて見る龍の姿に、莉依子は楽しくてたまらない。
 にっこりと笑って見せながら龍の頬に手を伸ばし、人差し指でツンとする真似をしてみた。本当にしたら絶対怒るから、真似だけで。
 それでもシッシッとまた払うような仕草で返され、莉依子は頬を膨らませた。

「昔はよく一緒に寝てたんだから、恥ずかしがることないじゃん」
「ガキの頃の話だろ!」
「もうガキじゃないってこと?」
「ガキだろ!」
「ねえ、言ってることめちゃくちゃだよ龍ちゃん」
「だからちゃん付けはやめろ!」
「だってー」

 莉依子はよつんばいになって、じりじりと龍へと詰め寄っていく。
 比例するようにさらに後方へと下がっていく龍も、背中が壁に当たったことに気付き、莉依子に向かって右手を出した。
 何か波動でも出す気かというほどに、大きく広げられた手。