莉依子は、あたたかな感触に包まれていた。

　久しぶりに名前を呼んでもらったせいか、頭を撫でて抱っこしてもらった頃に戻ったような、全身が包まれてとても温かい。
　しあわせというものに温度があるのなら、絶対に体温だと莉依子は思う。

　温かくて気持ちがいい。
　抱き込まれるこのぬくもりがちょうどよくて、気持ちいい。
　ずっとずっとこうしていたいなぁ……
　
　そこでふと身体が冷える感覚に陥り、またあの感触をと無意識に手を伸ばすと、あたたかい何かに当たった。
　そのまま抱き込むようにしようとした途端――

「ギャーーーーーーーーーー!!」
「……へ？」

　莉依子の幸福な時間の幕切れは、その幸福を与えてくれていた相手による絶叫で訪れた。
　否、今まさに抱き着こうとしていたのは莉依子のようだ。龍に向かって両手をいっぱいに伸ばした、自分の両腕が目に入った。

「……龍ちゃん、うるさい。まだ眠い」

　瞼を擦りながら、龍に文句を言う。
　あの夢の感触が確かなら、龍だって莉依子を抱きしめてくれていたはずだ。意識はなかったとしても。
　でも、今の龍は文字通り莉依子のそばから飛び退いて敷布団から消え失せていて、部屋の端に追いやられているテーブルの隣で立っていた。