「お前馬鹿だろ。馬鹿だよな」

 リビングダイニングのソファの上。
 龍によって浴槽から引き上げられ、ここまで運ばれてきた莉依子は、バスタオルを身に巻いた状態で横になり、額には冷たいシートを貼られていた。

 目の前には、心底呆れた顔の龍がいる。
 それでも手には清涼飲料水が入ったグラスにストローがさされており、「少しずつでいいから飲め」と、ずっと持ってくれている。

「いくらあんなぬるま湯でもな、肩まで浸かってしかも体育座りして1時間入りっぱなしじゃ脱水しかけるっつーの」
「………ご、……」
「謝らなくていいっつーか今は喋らなくていい。その代わり2度とするな」

 言われた通り、莉依子は声を出さずに縦に頷く。
 眉間の皺を深くしたままの龍は黙って頷き返し、「絶対だからな」と念を押した。

 ……間抜けにも程がある。

 莉依子は情けなさに目を伏せた。

 身体が湯につかっていくにつれて、気持ち良さが増した。
 それと同時に懐かしくて優しい想い出がいくつも蘇ってきてしまい、ずっと見ていたくなったのだ。